靫蔓(うつぼかずら) 水本爽涼
第百十四回
「早いこと食べてもて、はよ捜さな、あかんな…」
「そうやな…」
二人は握り飯を口へ詰め込む。二時間の遅れを取り戻さねばならないから、直助は気が急いた。
墓石の数は大雑把(ざっぱ)に見て七、八十はある。むろん、忘れ去られた無縁墓石というものを含めてだが、まだ半分ばかり調べる必要があった。ともかく懸命に熟(こな)してはみたが、残りの半分に早智子の手掛かりがあるとは限らない。時は刻々と巡り、経過していく。
食べ終えて長閑に寛(くつろ)ぐ時も惜しむかのように、二人はまた調べ始めた。午前中と同じで、正反対に別れて虱潰(しらみつぶ)しに当たる。幸い、天候の崩れはなさそうだし、日射しで墓石の文字も容易に判別できた。だが、それから小一時間が過ぎても、それらしき手掛かりは発見されなかった。直助は半ば諦めて、次第に気力が萎えてきていた。そのときであった。
「直さ~ん!」
離れた位置から勢一つぁんの呼び声がした。直助は声のする方向へ目線を向けた。
「ちょっと来てえなあ~!」