水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第百十四回)

2012年08月17日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第百十四回
「早いこと食べてもて、はよ捜さな、あかんな…」
「そうやな…」
 二人は握り飯を口へ詰め込む。二時間の遅れを取り戻さねばならないから、直助は気が急いた。
 墓石の数は大雑把(ざっぱ)に見て七、八十はある。むろん、忘れ去られた無縁墓石というものを含めてだが、まだ半分ばかり調べる必要があった。ともかく懸命に熟(こな)してはみたが、残りの半分に早智子の手掛かりがあるとは限らない。時は刻々と巡り、経過していく。
 食べ終えて長閑に寛(くつろ)ぐ時も惜しむかのように、二人はまた調べ始めた。午前中と同じで、正反対に別れて虱潰(しらみつぶ)しに当たる。幸い、天候の崩れはなさそうだし、日射しで墓石の文字も容易に判別できた。だが、それから小一時間が過ぎても、それらしき手掛かりは発見されなかった。直助は半ば諦めて、次第に気力が萎えてきていた。そのときであった。
「直さ~ん!」
 離れた位置から勢一つぁんの呼び声がした。直助は声のする方向へ目線を向けた。
「ちょっと来てえなあ~!」


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