水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 靫蔓(うつぼかずら) (第百九回)

2012年08月12日 00時00分00秒 | #小説

  靫蔓(うつぼかずら)       水本爽涼                                     
 
   第百九回
どういう訳か、どこをどう探せばいいのかが、書かれていなかったのだ。ところが、その日の朝は、少し五日間と違った。紙にメモ書きされた内容には、どこそこを捜して欲しいとでも書かれていたのだ。もし、山林地帯を捜して欲しい…とでも書かれていたなら、直助は事件の可能性を考え、怖い以上に偉いことになったぞ…と思っていたに違いない。だが、そこに書かれていた内容は、とある山埋(さんまい)である。山埋とは、字義のとおり、山地に埋葬する墓地のことだから、直助は少なからず安心して、ホッと胸を撫で下ろした。墓地に葬られているのなら、さほど珍しいことではないし、特異なことでもないからである。要するに、その状況が分からないから、アレコレと想いを巡らすのだが、まあ殺されて埋められた…とかの事件性は小さいようだから胸を撫で下ろしたのである。そのメモ書きには文章はなく、ただ図面だけが、やや曖昧に簡略化され描かれているだけだった。
                         

 戸開山(とかいやま)は直助の住む町から少し離れたところにある二百メートルばかりの小高い山なのだが、なぜそこに早智子が眠っているのか…という素朴な疑問が起きる。漠然とした絵からは、記された場所が推測できるだけで、ここだ、と明確に読み取れない。それでも長年住んでいる土地勘で、おおよその見当はついた。確かに×印された辺りには、昔ながらの山埋があるし、具体的にここで眠っている…とは書かれていないが、恐らくそうだろうと思える妙な閃きが直助にはあった。


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