代役アンドロイド 水本爽涼
(第252回)
出かけるとき、里彩に口止めするのを、ついうっかり忘れていたことに気づいたのだ。
「じいちゃん、そうなのか?」
「おっ? おお、まあそうじゃ」
「すごいじゃんか。まだ腕は健在なんだな」
「ははは…もう昔ほどではないがのう。それより保、沙耶さんも、じゃろうが。三井がほぼ間違いないと言っておったぞ」
「メカ同士だから、分かるんだな」
「そうじゃのう。微妙な人間との音声の違いを感知したんじゃろう」
「アンドロイド同士だから、いいわよね」
「そうじゃのう。里彩の言うとおりじゃ、ほっほっほっほっ…」
長左衛門が笑い、釣られて保と里彩も笑った。話題の沙耶と三井は、キッチンで別方向の話を煮詰めていた。
『私(わたくし)もあなたも、アンドロイドとして利用されている、とはお考えにならないのでしょうか』
『私はそこまで考えたことはないわ。保と十分、楽しくやっているから…』
『そうですか。私も先生や里彩さんに逆らうつもりはないのですが…。最近、自分自身の存在に疑問を抱いておるんです』
『考え過ぎなのよ。私達は高々、人間が作ったアンドロイドじゃない。ただ、ロボットと違って思考できる能力が備わっているだけの…』
『それは沙耶さんが仰せのとおりです。しかし、私達にも人権ならぬ物権があるんじゃないでしょうか』