水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

連載小説 代役アンドロイド 第256回

2013年07月09日 00時00分00秒 | #小説

 代役アンドロイド  水本爽涼
    (第256回)
『そんなに、お褒めいただきますと、恐縮しますわ』
 言語システムの謙遜を選び、沙耶は下手に出た。ただ少し、笑いが、ぎこちない。保は、逆に自慢っぽく見えるぞ…沙耶の言い方を心配したが、幸いにも長左衛門は沙耶を見ていなかった。
 二人が食事を終え、ひと通りの世間話も出尽くすと、三井は頃合いとばかりに携帯を握った。長左衛門が自分名義で買い渡したものである。
『岸田でございます。言っておりましたように、そろそろタクシーを、こちらへお回し願いたいと存じます。…はい! なにぶん、よろしく』
 すぐにホテルの者が出て対応したのか、三井はすぐに携帯を切った。長左衛門達が保のホテルを去ったのは、その20分ばかり後だった。長左衛門の旧友である大財閥傘下のホテルということもあり、タクシーとはいえVIPクラス待遇の長左衛門高級車の迎えだった。
『じゃあ…』
『はい、あのようなことでお待ち致しております…』
 マンションの出がけに、沙耶と三井が軽い言葉を交わした。
「んっ? なんのことだ…」
 保は三井の意味を解せず、沙耶に訊(たず)ねた。
『ううん…、別になんでもないわ』
「そうか…」
 保は少し訝(いぶか)しく思ったが、深く追求せず聞き流した。


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