代役アンドロイド 水本爽涼
(第256回)
『そんなに、お褒めいただきますと、恐縮しますわ』
言語システムの謙遜を選び、沙耶は下手に出た。ただ少し、笑いが、ぎこちない。保は、逆に自慢っぽく見えるぞ…沙耶の言い方を心配したが、幸いにも長左衛門は沙耶を見ていなかった。
二人が食事を終え、ひと通りの世間話も出尽くすと、三井は頃合いとばかりに携帯を握った。長左衛門が自分名義で買い渡したものである。
『岸田でございます。言っておりましたように、そろそろタクシーを、こちらへお回し願いたいと存じます。…はい! なにぶん、よろしく』
すぐにホテルの者が出て対応したのか、三井はすぐに携帯を切った。長左衛門達が保のホテルを去ったのは、その20分ばかり後だった。長左衛門の旧友である大財閥傘下のホテルということもあり、タクシーとはいえVIPクラス待遇の長左衛門高級車の迎えだった。
『じゃあ…』
『はい、あのようなことでお待ち致しております…』
マンションの出がけに、沙耶と三井が軽い言葉を交わした。
「んっ? なんのことだ…」
保は三井の意味を解せず、沙耶に訊(たず)ねた。
『ううん…、別になんでもないわ』
「そうか…」
保は少し訝(いぶか)しく思ったが、深く追求せず聞き流した。