代役アンドロイド 水本爽涼
(第270回)
山盛研究室で飛行車の軽量化された車体組立が本格的に開始されたのは、秋が深まり朝晩の冷えが少し身に染みるようになった頃だった。
「明日からシュラフ持参で研究室に泊り込むから、食事はいいぞ」
『あら、そうなの? 何日ぐらい?』
「数日だ。連絡するからさ…」
保は携帯を握って沙耶に示した。
『分かったわ…』
沙耶は了解すると同時に、このチャンスを逃す手はない・・と、体内システムを駆使して三井と策した実行可能シュミレーションを瞬時にシステム内で考案した。人間とは異なり、ほぼ100%の確率で策を実行できる思考が可能な沙耶なのである。保から数日と聞けば、これはもう、沙耶的には、かなりの余裕があった。
その正午、沙耶が三井に電話を入れた。
『はい! 三井でございます。…今日は木曜ではないのですが、いかがされました?』
申し合わせたのは木曜だったが、その日は日曜だった。
『実は、明日から保が数日、いなくなるの。…って言っても、研究室に泊まり込むからなんだけどね。それでさ、この前の第一実行段階をどうかしらって思ってね』
『明日からですか。…私(わたくし)の方は悟られないようにってなりますと、やはり夜間の8時以降ってことになります。先生から解放され、自室へ籠もるのは、いつも、それくらいですから…』
『そう…。私の方は昼だろうと夜だろうといいんだけどね。問題は場所と道具類か…』