代役アンドロイド 水本爽涼
(第254回)
『明後日(あさって)の正午でございますね。先生のお住まいになられる離れの電話番号は、こちらでございます』
三井は長左衛門の名刺を沙耶へ手渡した。
『了解!』
沙耶の言葉を合図に三井は椅子を立ち、事も無げに和室へと戻った。
「おお! 三井。沙耶さんと何を話しておったのじゃ?」
『はい。これといったことは別に…。単なる世間話でございます』
アンドロイド同士の盟約が結ばれた、などとは到底言えない三井である。そこはそれ、瞬時の機械的思考で、その場を凌いだ。
「おじちゃん、お腹が、すいた…」
なんの屈託もない里彩が、思ったとおりをそのまま言った。
「あっ! そうだね。じいちゃんと向うで何か食べな。沙耶にすぐ作らせるから」
「いや~すまんのう。それでは里彩よ、遠慮なくそうさせてもらおうかのう…」
長左衛門は、ゆったりと座布団を立ち、里彩も続いた。
「沙耶さんは、すぐ作るもんね」
「そうそう、沙耶さんは手早かったのう」
長左衛門は意味ありげにジロッ! と保を一瞥(いちべつ)した。
「ははは…料理教室の首席卒業だって、いつか言ってたよな」
「おお…そうだったかのう」
半ば得心して、長左衛門は和室を出た。すでに里彩はキッチンへ走っていた。