代役アンドロイド 水本爽涼
(第274回)
行き違いになってはアウトだから、10分前には離れの外で待っていよう…と、三井は密かに思考システムを働かせた。その頃、沙耶は少しずつ屋敷へ接近しつつあった。夜間だが、体内に内臓されたGPS(広範囲位置認識システム)によって現在地の正確な把握は出来ていた。むろん、長左衛門の離れがある岸田家の位置も脳裏の地図画面の中に記されていて、そこへ到達し得る最も最短距離をシステムは瞬時に計算していくのだ。沙耶は8時40分の時点で約1,500mの位置まで接近していた。同時刻、三井は離れの外へ出ようとしていた。少し前に待機しているのが日本的礼儀だ・・と、古風な長左衛門が組んだマニュアルが思考回路にプログラムされていて、そのシステムが三井に命じていた。
沙耶が、ようやく屋敷前へと着いた。長左衛門や三井がいる離れへは斜め向かいの細い路地を通った方が早いわ…と即断し、沙耶は表門を入らず横切ると、屋敷の側面に回った。
『ぴったりだわ…』
『はい! きっかり、9時ですね』
二人? は9時ちょうど、離れの外で出喰わした。タイミングを推し量って1秒の狂いもなくお互いが現われたのである。沙耶も三井も、時計は持っていないが、体内に内蔵されたシステム時計が正確な時を刻み続けていた。
『では、さっそくかかるとしましょう。ご案内致します…』
三井に先導され、沙耶は長左衛門の隠れ部屋へと入った。