代役アンドロイド 水本爽涼
(第276回)
『すでに11時40分になっております。早くお帰りになって下さいまし。もう少しすれば日が変わります』
『有難う。それじゃ、この次までお元気…故障なくね』
言い終わった刹那、すでに沙耶の姿は長左衛門の隠れ部屋にはなかった。そして日付が変わった午前2時前にはマンションの一室に沙耶の姿があった。
『茨城のボランティアのときは保がメンテナンスしてくれたけど、今回は自分で点検するしかないわね…。停止しないでだから最低ラインしか出来ないか…。この不都合を何とかしなくちゃ。あっ! 三井さんに次回、やってもらおう』
沙耶は自問自答するとUSB端末をパソコンと自身の足裏に接続し、エンターキーを押すと点検ソフトを起動した。やがて、パソコンの黒いスクリーン上に不具合の個所を表示するためのプログラム計算式が英数文字や記号を織り交ぜて羅列していった。そして、30秒ほどもすると、━ 異常個所は見当りません ━と、白文字が浮かび上がり、保が冗談半分にプログラムしたと思われるファンファーレの音響が、パンパカバーン! と、ド派手に鳴ったのである。
『なに、これ! 私を馬鹿にしてるわ!!』
決して怒りの感情が沙耶の思考システム内を流れた訳ではない。というより、喜怒哀楽の感情は、すべてプラス・マイナスのレベルで客観的にコントロールされているのだ。だから、この場合は、むしろ予想外、想定外の突発事象に対するモノ珍しい驚きの感情走った・・と言うべきであろう。当然、システムは平静に事象を捉えようとして修正プログラムを起動させた。