うらぶれた佇(たたず)まいの家? と見紛(みまご)うダンボールと板戸で囲われた住処(すみか)の中で、途草(とくさ)は新年を迎えていた。都会からは少し離れた人家の少ない田舎町の外れだけに、誰も苦情を言う者はなく、途草はのんびりと日々を過ごしていた。
「ああ…年も明けたか」
寝転びながら途草は、ふと、溜息(ためいき)をついた。昨日(きのう)店の裏の芥箱(ごみばこ)から頂戴した分厚い肉の切れ端(はし)や食べ残された残飯は、冬の寒い今、まだ十分に食料として食べることができた。それに加え、調理の手間も省(はぶ)けたから、もっぱら年末年始は、この手を使うのがここ数年、途草の常套(じょうとう)手段になっていた。しばらく、寝転んでいた途草は芥捨て場から拾ってきた針金に吊(つ)るされた古い柱時計を見た。古時計はコチコチ…と侘(わび)びしく時を刻(きざ)んでいた。
「こんな時間か…」
途草は独(ひと)りごちながら、これも拾って敷いた薄汚れたカーペットを立ち上がった。カーペットの下は土だったが、上手(うま)くしたもので、土の上の枯れ草が絶好のクッションとなっていた。立ち上がった途草は、いつものズタ袋を肩にして外を歩き始めた。目的は空き缶拾いで、町をひと回りすれば、それなりの周回ルートは勝手に決めていた。高いときでKg¥120だったものが、今では¥80程度だったから、そう大した必需品は買えなくなっていた。それでも、欲のない途草には必要なものはほとんどなく、一回につき数百円の収入で充分だった。
途草が歩いていると、成金社長の美葉(みば)が途草に向かって歩いてきた。二人の出で立ちは対照的で、襤褸(ボロ)同然の服・・に身を纏(まと)った途草に比べ、豪華な衣装に高価な靴・・と身を窶(やつ)した美葉である。擦(す)れ違う二人の間に一瞬、目に見えない稲妻(いなづま)が走った。自然が引き起こしたプラスとマイナスの偶然の出会いだった。格差…二人は、擦(す)れ違った直後、同じことを思った。
最近、世の中では、ふと、そう思えることがよくある。
完