水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-55- 無意識

2016年11月16日 00時00分00秒 | #小説

 夕方、どういう訳か無性にカッブ麺が食べたくなった凸木(でこぎ)は、テレビの男子サッカーのビデオ録画を観戦しながら麺を啜(すす)っていた。
「おおぉぉっ!」
 しばらくし、思わず雄叫(おたけ)びをあげ、凸木は麺を喉(のど)に詰めそうになった。カップの汁が無意識に少し零(こぼ)れた。延長前半15分、貴重なアシストからのヘディング・シュートが相手ゴールの左上ネットに突き刺さったのである。相手チームは強豪だった。さらに後半15分、左後方からのミドルシュートが2本、炸裂(さくれつ)し、相手ゴールのネットを揺(ゆ)さぶった。カップの汁が、無意識にまた零れた。試合は3-0で勝ちとなった。これでオリンピックのアジア予選は出場に王手がかかったことになる。次の準決勝を勝ち進めば、オリンピック代表として晴れて出場できる訳だ。
「成せば成るか…」
 凸木は零れたカップ麺の汁を無造作に拭(ふ)きながら、独(ひと)りごちた。
 凸木は職場で来年度予算に取り組んでいた、今年は上司からの業務命令で当初予算額の削減を余儀なくされていた。膨らむ一方の予算額削減を・・である。民間の企業会計とは異なり、大方の公会計では、当期純利益の計上は目的とされない。余った予算額は上手(うま)い具合に流用、充当ですり替えられ、いつの間にかマジックのハンドパワーのように予算執行率がほぼ100%近くへ高められるのである。その結果、数値的に書類を見れば、『必要だな…』という結論に至る訳だ。そして、来年度予算にも反映されるという馬鹿げた仕組みが毎年繰り返されている。
 理詰めに考えれば、まあそんなことだが、凸木が思ったのは、別にもう一つ、意味があった。実は、医者から検査で塩分の取り過ぎを指摘され、再検査を指示されていたのである。半月が経過し、摂取(せっしゅ)量が一日7~10g以内とは…と、凸木はその難(むずか)しさを思い知らされた。カップ麺1個を食べれば麺とスープで6gを超える。もう何も食べられないではないかっ! ぅぅぅ…という思いが、潜在意識でカップ麺の汁を零したとも考えられた。
 潜在意識で思っていることが、無意識のうちに現実の行動に出ることは、よくある。

                    完


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