水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-63- マニュアル

2016年11月24日 00時00分00秒 | #小説

 最近の世の中は、多くの物事がマニュアルによって構成されている。物的には取り扱いのマニュアルとかであり、人的には顧客(こきゃく)に対する接遇(せつぐう)などがある。個々への対応は消去され、すべての対応が総花的に同一化される訳だ。総じて、物⇔人の場合は、ほとんどの場合が有効な手段となるが、人⇔人の場合となると、ある程度の融通幅(ゆうずうはば)を持たさないと大きなトラブルともなりかねない。
「君、これなんだけどね…私の場合、どれがヒットするの?」
「あっ! こちらでございますか? 当店の場合、お客様にお選びいただくことになっております」
「それは分かってるんだよっ! だから、君はどう思うのかを聞きたいんだ、私はっ!」
「そう申されましても、私どもからは、お答え出来ないことにマニュアルでなっておりまして…」
 客に詰め寄られた店員は冷や汗を掻(か)きながら返答に弱り果てた。
「そんな顔をしなくてもいいよ。何も君を苛(いじ)めてるんじゃないんだからね。店の責任者は?」
「はあ! ただ今、呼んで参ります…」
 店員が下がり、しばらくすると店長らしき男が現れた。
「お待たせいたしました。どういったことでございましょう?」
「これなんだけど、私にはどれがヒットするんだね?」
「はあ? ええ、まあ…どちらもよくお似合いでヒットされると思いますよ」
「だからさ! どれが一番、ヒットすると君は思う?」
「あの…お客様。当店ではそういうことをお答えできない規則になっておりまして…」
「マニュアルがある、と言いたいんだろっ! そのマニュアルは、いったい誰が決めたんだっ?」
「はあ…本店総務部からの指示でございます」
「君では話にならん! 本店総務部長を呼びたまえっ! 直接、話を聞こうじゃないかっ!」
 話は本店総務部長では解決しなかった。とうとう、この店に社長まで呼ばれることになり、店長が変わったという話である。 これは極端な一例だが、マニュアルを重視し過ぎると、トラブルになることは、よくある。

                          完


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