水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

よくある・ユーモア短編集-61- 風呂屋

2016年11月22日 00時00分00秒 | #小説

 国会で賑(にぎ)やかな代表質問が行われている。実況中継のテレビ画面を観ながら邦枝(くにえだ)は欠伸(あくび)をした。
「…ちっとも変らんなあ」
 那枝は欠伸のあと、そう呟(つぶや)きながら、さらに溜息(ためいき)を一つ吐(は)いた。何が変わらないのか・・といえば、与野党の国会議員の質問と、その答弁内容である。那枝に言わせれば、いつやら聞いた同じような質問と答弁を、同じ内容でまた蒸し返している…ということだ。もちろん、語られる文言(もんごん)は言葉、内容を弄(いじ)って巧(たく)みに掏(す)り変えてはいるが、よく聞けば、議員はやはり同じ内容を語っている・・となる。
「風呂屋か…」
 これも那枝の隠語だが、風呂屋→お湯ばっかり→言(ゆ)うばっかり・・となる。
「温(ぬる)いな。もう、ひと燃(く)べ!」
 しばらくして、また那枝は呟いた。那枝語では、風呂屋のお湯も熱め、温め、低めと、いろいろあるが、熱め→なかなかの発言、温め→もう少し熱い内容で語って欲しい、低め→有りきたりで、聞くに堪(た)えない・・となる。
 那枝がテレビを消したとき、キッチンから妻の美咲が現れた。
「今日の料理は上手(うま)く出来たわ…」
 はっきりとは言わない小声に、那枝は、『今日も風呂屋だな…』と思った。
 世の中には、風呂屋が大繁盛することが、よくある。

                    完


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