どうも上手くいかないぞ…と、田井岡は意固地(いこじ)になっていた。というのも、冷蔵庫へ収納しようとしたサランラップが半(なか)ばで破れ、ついに出せなくなったのである。最初は、ははは…この程度なら前のように…と田井岡は高(たか)を括(くく)っていた。ところが、ドッコイである。そうは問屋が卸(おろ)さず、スンナリと商品が小売りで売られないから手に入らなくなり・・ということではなく、田井岡は手間どる破目に陥(おちい)った。田井岡はまず、表面の切れ口を探(さぐ)った。しかし、透明なサランラップの表面では容易に切れ口を探せるものではなかった。田井岡は少し焦り始めた。箱の注意書きには、そんな場合はセロハンテープを片隅に貼り…と書かれていた。よしっ! そうしてやろうじゃないか…と、少し挑戦的になってきた田井岡は、セロハンテープを注意書きのようにしてサランラップを引き出そうとした。ところが、また問屋が渋って卸さなくなった・・ということではなく、上手くいかない。この段階から田井岡は次第に意固地になっていった。
「ぅぅぅ…」
上等(じょうとう)じゃねえかっ! と思えば手も少し震え、注意書きには爪(つめ)や刃物で切らないで下さい・・と書かれているにもかかわらず、田井岡はそうやっていた。だが、やはり首尾(しゅび)よくいかない。いかなくても、いかすぞっ! 田井中は半(なか)ば切れ、完全に意固地に成り果てていた。しばらくセランラップとの闘格闘が続いたが、やはり上手くいかなかった。ここは、ひとまず落ち着こう…と思った田井岡は一端、手を止め、美味いコーヒーとまではいかないインスタントのを啜(すす)ることにした。至福とまではいかない一杯を啜ると、それでも心が落ち着き、田井岡から意固地は退散していた。そして作業? を再開してしばらくすると、どういう訳か上手く出せた。縦に両側の端までセロテープを長く貼ったのが功を奏(そう)したのである。ただ、数mはムダになっていたのだが…。
意固地になり過ぎると、上手くいくことも上手くいかなくなることは、よくある。
完
※ 田井岡さんに聞いた話では、現在まで1勝1敗だそうです。^^