幽霊パッション 第二章 水本爽涼
第六十三回
『そうよのう。…まずは馴れずばなるまい。社会悪と霊界司様の仰せなれど、儂(わし)にも、ちと目星がつけられん。それに、規模としての問題もある。世界全体、日本、いや、住まいする地方とは、まったく違うでのう。加えて、社会悪の質にもよる。微々たる事柄から私利私欲を肥やす大悪まで、さまざまじゃからのう…』
『そうなのです。目安が立てられません』
『まあ、そう心を悩ますほどのことはあるまい。まずは、目先の小事より始めてみては、どうじゃ? 儂もまた、霊界司様に訊(き)いておこう』
『はい、そう致すでございましょう。よろしくお願い致します』
『それではのう…』
光輪は、たちまち消え失せ、辺りは飛び交う御霊(みたま)と幽霊平林がスゥ~っと漂う姿だけとなっていた。
あっ! 課長を待たせていたぞ…と幽霊平林が気づいたのは、それから五分後である。彼には、こんなうっかりする、ぞんざいな一面があった。
『課長! 戻りました』
幽霊平林が上山の家へ戻ると、すでに朝食後の上山がキッチンで食器を洗っているところだった。
「ああ…、もう、そろそろ、かと思ってたが…」
上山は蛇口のコックを押さえながら、そう云った。勢いよく流れ出ていた水が、ピタリと止まった。
『今度は、しっかり訊いてきましたよ』
「そら、そうだろう。途中で用件を忘れれば、間違いなくボケ老人だ。それで、どうだった?」
『はい、霊界番人様の仰せでは、課長の好きにせよ、とのことでした』
「えっ? なんだって?! 偉く淡白な返答じゃないか」
『そうなんですよ。僕も、それでいいのか? と思いましたので、も一度、訊いたんですがね』
「やっぱり、好きにしろ、ってか?」
『ええ。…僕とコンビを組んで社会悪をなくすのに支障となるようなら会社を辞めればいいし、二股が可能なら、今までどおりでいいだろう、ってことだと…』
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