goo blog サービス終了のお知らせ 

水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百九回)

2011年01月21日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百九
『今は、お邪魔なようですので、またの機会にします。では…』
 なんだ、冷やかしか…と、私は少し怒れた。初閣議の真っ最中に、よりにもよって…と思えたせいもあった。それでも、初閣議は粛々(しゅくしゅく)と運び、そう長くもなく終了した。小菅(こすが)総理としては呼び込みの際、各大臣に所信と要望を云われていたから、取り立てて初閣議に諮(はか)る事柄(ことがら)もなかったためと推測された。当然、私も呼び込みに際して云われていた。
「塩山さんには、民間人として忌憚(きたん)なく力を発揮して下さい。あなたのことは煮付(につけ)さんからいろいろとお聞きしております。今、我が国が抱えている食糧問題に対処すべく、前内閣では米粉プロジェクトを立ち上げ、政府主導で対案を講じ始めたところですが、改造後の現内閣ではより一層、全国ネットでの展開をお願いしたい。これは我が国の農業の今後にも関係した重大事項ですので、よろしくお願いしますよ」
 一字一句とは云わないが、掻(か)い摘(つま)めば、総理の要望は大よそ、こんなものだった。誇(ほこ)らしくもある地位の大臣だが、それだけ責任も大きいのだ。日本の将来を左右する立場として、農水省でやらねばならない課題は米粉だけのことではないのだ。ただ私は、なぜか出来そうに思えた。苦境に立てば、玉の霊が救ってくれそうだ…という気がしたからだった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百八回)

2011年01月20日 00時00分00秒 | #小説

    あんたはすごい!    水本爽涼
                                       
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                   
    第ニ百八
 受話器を握ったとき、もうこれは呼び込み以外にはないだろう…とは思っていた。案の定、呼び込みだった。あとから聞いた話だと、議員のめぼしい方々には取り巻きの報道陣が詰めかけているようだったが、幸いにも無名の私には、そうした気忙(きぜわ)な心配ごとはまったくなかった。ただ、タクシーで官邸に到着して以降は完璧に有名人扱いで、ラジオ、テレビ、新聞を賑わせることになってしまった。決して私自身が望んだことではなく、玉が良かれ、と判断した結果なのだからどうしようもない。私は平々凡々と暮らしたかったのだが、玉によってある意味、凡人としての人生を歩めなくなったのだから、名声を馳せて出世することの比較では痛し痒(かゆ)しと云えるだろう。
 さて、皇居での認証式で、あの超有名な陛下ともお出会いし、正式に農水大臣のポストに就任した私は、小菅(こすが)内閣の初閣議に臨んだ。私は末席を汚(けが)す程度の存在だったから、小菅総理の席からは、かなり遠かった。なにやら語っておいでのようだったが、正直云って、あまり聞きとれなかった。というのも、心ここにあらず、だったことと、急に玉のお告げが聞こえたためである。
『どうでしたか? もう少しあとで、と思いましたが、とり急ぎ、お祝いだけ云わせてもらおうと、寄せて戴(いただ)いたようなことです』
 もちろん、お告げの声は他の閣僚達には聞こえていなかった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百七回)

2011年01月19日 00時00分00秒 | #小説

  あんたはすごい!    水本爽涼

                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百七
「それ以上は小菅(こすが)さんの専権事項だから俺にも分からんが、たぶん呼び込みが始まれば電話がある筈(はず)だ。あれば官邸へ出向けばいいんだが、待機してなきゃ駄目だぜ」
「はい! まあ、私にもその辺は大よそ、分かってるつもりですから…」
「だとは思うが、念のためにな…」
 煮付(につけ)先輩は、こと細かにアドバイスしてくれた。
「で、先輩のポストは?」
「んっ? 俺か? 俺は留任だそうだ。総理から内示めいた言葉は、戴(いただ)いている」
「そうなんですか…。でしたら、先輩とともに内閣の一員って訳ですよね?」
「ああ、まあそういうことだな…」
 そして、そうなった。二日後の朝、ようやく先輩の世話してくれたマンションで落ち着き始めた頃、突然、電話が入った。すでに呼び込みを伝えるテレビの映像が流れていたから、私は先輩に云われたとおり、電話機の前で、じっと待機していた。あっ! テレビや電話機は? と疑問を抱かれる方もおられると思うが、これが先輩の世話してくれた…の下りである。先輩は私が入室した部屋に、すでに、あらゆる電化製品、生活備品の一切を調達しておいてくれたのだった。やはり、先輩は私が尊敬する辣腕(らつわん)家で、さすがは国政の要(かなめ)を小菅首相に任された大した人物だ…と思わせた。先輩が云っていた着のみ着のままでとは、まさにその言葉どおりだった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スピン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百六回)

2011年01月18日 00時00分01秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百六
しかし、そんな小事は、この時の私にとってどうでもよかった。今後の私は一躍、世間にその名を馳せる大臣なのだ。マスコミに騒がれるなどは申すに及ばず、人々に知られる存在になることは覚悟せねばならない…と思えた。スターではないにしろ、なんといっても日本の国務大臣なのだから、著名人の末席を汚(けが)すことは、ほぼ疑いようがなかった。私は幸いにも独身だから、東京に住まうとしても気楽な身の上だった。
 専務に仔細を話したその日の午後、家では最小限の荷造りをした。生活の本拠は煮付(につけ)先輩が手頃な物件を借りてくれていた。私としては、ただ着のみ着のままで上京すればよかったし、先輩もそれでよいと云ってくれていた。新幹線の幹線網が整備され、私が住む眠気(ねむけ)からも割合と簡単に東京へ出られるようにはなっていた。
 東京駅へ着くと先輩が出迎えてくれた。もちろん、先輩の周囲には要人警護のSPが、がっちりガードしていたから、先輩や秘書を含む集団と私は、とあるホテルへと向かった。ホテルに到着した私達は、東京を一望できる上層階のロビーで食事を共にしながら語らった。
「いよいよ、二日後には改造内閣が発足する。総理の意向は当然、農水大臣だぜ」
「はい、それは大よそ分かっておりました」
 内閣主導の米粉プロジェクトに参画していた私だったから、首相の思惑は、たぶんその辺りだろう…と、予想は、ほぼついていた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百五回)

2011年01月17日 00時00分00秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百五
 ひと月が流れ、ついにその時が来た。えっ! どんな時なんだ? と疑問に思われるお方もおられると思うので、掻(か)い摘(つま)んで説明すれば、煮付(につけ)先輩に打診された大臣登用の一件である。小菅(こすが)内閣は先輩が云っていたように改造を迎えようとしていた。当然、その半月ばかり前に先輩からの電話があり、心づもりしておいて欲しい…と、釘を刺された私だった。
「そうか…。まあ仕方なかろう。君の戦力を失うのは今の我が社には辛(つら)いが、それもまあ在任中だけ、ということだから我慢しよう。日本全体の第一次産業の将来、ひいては食糧問題を考慮に入れれば、我が社の利益のみ考えている訳にもいくまい…」
 専務室の中で、私は鍋下(なべした)専務に事の仔細を報告していた。
「はい…。それまでは無報酬の外部顧問として、一応は我が社を離れますが…」
「大臣規範だったかな? そういう難しい決めがあるとは知らなかったよ」
「いや、私も玉に、いえ、時たま、国会中継を観るくらいで、政治には疎(うと)かったもので、まったく知りませんでした」
 危うく口が滑りそうになったが、なんとか私は云い逃れた。専務も幸い気づかなかったようで、事なきを得た。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百四回)

2011年01月16日 00時00分00秒 | #小説

 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百四
「これは、棚の玉と交信しておるのですよ。まあ早い話、人間で云うところの会話ですな」
「あのう…、なにを?」
「そこまでは私にも分からんのですが、今までの集積データの送信という奴かも知れんですな。私とあなたの今までの情況を、ですぞ」
「そんな…。見張り番のようなことをされちゃあ、おちおち何も出来んじゃないですか。SPじゃあるまいし…」
「ははは…、SPてすか。上手いこと云われますな。まあ、そんなことも、ないようなあるような…」
 肯定するでも否定するでもない云い回しで沼澤氏は暈して云い、小玉をポケットへ入れた。私も、そうした。
「満ちゃん、おかわり、どう?」
 ママが二人の会話を邪魔しないよう、小声で云った。
「えっ? ああ…、頼みます」
 私は、ほぼ空になったグラスをママの方へ突き出し、三切れほどになったアスパラガスのベーコン巻きを、ひと切れ頬張った。沼澤氏は、いつの間に出されたのか分からないマティーニを、チビリとやった。そして、コップの水で軽く口を漱(すす)いだ。なんでも、マティーニの風味をじっくり味わうためらしかった。
 私達はその後、適当に飲んで支払いを割り勘にした。これも沼澤氏によれば、長くいい付き合いを続ける秘訣(ひけつ)ということだった。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《惜別》第三十六回

2011年01月16日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第三十六回

「ええ…。私の残月剣を何処(いずこ)かの地で見られることを楽しみにしておると…」
「お前は全国を行脚して、いっそう残月剣の太刀筋を磨け、ともお書きじゃ」
「はい…。それより道場の行く末は、長谷川さんが去られた後、樋口さんに任せると…」
「ああ…まあな。果たして俺のような者に務まるかどうか…」
「最後の先生のご下知ですから…」
「それはまあ、そうだ。やれるところまで、やるまでよ」
 そう云い捨てると、樋口は自信のなさを振り払うかのように高らかに笑った。
 三日後、左馬介は道場を去る旅立ちの支度に余念がなかった。本来ならば僅か三年ばかりでは、道場を中途退籍する者、ということになるのだが、左馬介の場合は、師である幻妙斎自らの特別な許しがある。これは偏(ひとえ)に抜きん出た剣の才を幻妙斎が認めるとともに、皆伝の長刀兵法目録を授けたことを意味した。今迄、堀川の門下で左馬介のような傑出した人物はなく、奥伝、或いは中伝にて道場を去る者ばかりだったのである。季節は梅が匂う初春を迎えようとする頃で、暖かな陽射しに自然が息吹く兆しがあった。

                                                  惜別  完

                       ≪残月剣 -秘抄-  完≫


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百三回)

2011年01月15日 00時00分02秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百三
ひと口、食べて水割りを流し込んだ。至福のひとときとは、まさにこれだと思えた。ただ、この幸せがあと何度、味わえるのかと思うと心が乱れた。私はふと、酒棚を見た。すると、久しく異様な光を発していなかった棚の水晶玉が渦巻いているではないか。私は目を擦(こす)ったが、やはり幻(まぼろし)ではなかった。いつやら、棚の玉とポケットの中の小玉が同時に渦巻くのかを確かめよう…と思ったことがあったが、そのときから、まだ一度も渦巻く玉を見たことがなかった。それが、この夜は渦巻いていたのである。ママや早希ちゃんには見えておらず以前、私が輝いていると云い、二人に小馬鹿にされた経緯(いきさつ)があった。この夜は沼澤氏がいたから、彼にはどう見えているのだろう…と確かめたくなった。
「酒棚の水晶玉ですが…」
「ええ、今夜は渦巻いています…」
 沼澤氏は、ちっとも驚いていないようで、落ちついて語った。そして、ポケットから徐(おもむろ)に小玉を取り出し、手の平へ乗せた。なんと、その小玉も異様な黄や緑色を浮かべて渦巻いていた。
「塩山さんもお持ちなら、確認をされては?」
「えっ? はい…」
 私は背広上衣のポケットに入れていた小玉を取り出して手の平へ乗せた。すると、その小玉は沼澤氏のものと同様に、黄や緑色の光を浮かべて渦巻いているのだった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

残月剣 -秘抄- 《惜別》第三十五回

2011年01月15日 00時00分00秒 | #小説

        残月剣 -秘抄-   水本爽涼

          《惜別》第三十五回

 左馬介は気が急いていた。
 道場の同じ敷地内にある庵(いおり)へ行くには、そう手間取らない。左馬介と樋口は、慌て気味に玄関より庵へと急いだ。長谷川と鴨下は、ただ茫然と立ち尽くして、二人が出て行く様を見守るばかりだった。
 庵の机上には、いつ認(したた)められたのかは分からないが、確かに幻妙斎の墨書が置かれていた。樋口は、その書面を黙読し始めた。左馬介も、その隣から覗き読む。暫くして、二人は得心出来たのか、急に肩を落とすと、どちらからともなく、フゥ~っと静かに溜息を、ひとつ吐いた。
「そうか…、先生は風と消えられたのか…」
 樋口は巻紙の書面を回しつつ読み続ける。当然、左馬介も読む。
「孰(いず)れは朽ちる己が身を、そなたらに見られとうはない…と認(したた)めておられますね」
 黙読する樋口の横で左馬介が口を挟む。
「うむ…。先生ほどの達人、やはり凡人の我々とは全てが違うわ。あのお人は、やはり神のごとき存在なのだ…」
「はい…、それは確かに」
「左馬介、お前のことも書かれておるのう」


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

スビン・オフ小説 あんたはすごい! (第二百二回)

2011年01月14日 00時00分02秒 | #小説
 あんたはすごい!    水本爽涼
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                           
                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                              
    
第ニ百二
「それはそうと、この前、お話しした大臣の一件なんですが、沼澤さんはどう思われます?」
「どう? と訊(き)かれましても、私がこうだ、と申す筋合いの話じゃありませんから…。最終的には塩山さん、あなたがお決めになることです…」
「それはそうなんですが…。どう思われるかだけでも訊かせて戴ければ、と思いまして…」
「はあ…。まあ、玉がそうしたのなら、そうするのがベターなんでしょう。玉だって悪いようにはしない筈(はず)です
「なるほど…。参考にさせてもらいます。それと、いつやらも訊いたのですが、こちらから玉にコンタクトがとれるようにするには、何か方法があるのでしょうか? それとも、何もしなくても?」
「…恐らくは、あなたが念じて玉に問いかけたとき、玉のお告げがあればそれがコンタクトがとれるようになったということでょうか。とれるようにする方法なんて有り得ませんよ。私だって、ふと問いかけたくなって念じたとき、お告げが返ってきたのですから」
「これは、いいことを耳にしました。お告げのことはそのようにします。それと、大臣の話は、まだ改造があればの、レバニラ炒めですが、一応はお引き受けする方向で考えてみることにします」
 私はそう云うと、水割りのグラスを傾け、ママが作ってくれたアスパラガスのベーコン巻きを頬張った。なかなか、美味だった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする