「歴史を忘れた民族に未来はない」という横断幕を、韓国サポーターがサッカー日韓戦でスタジアムに掲げたことは記憶に新しい。慰安婦問題などで日本に謝罪を求める韓国だけでなく、中国も大使が各国で「日本はナチスと同じ」という宣伝を行い、「日本は歴史と向き合うべきだ」と盛んに喧伝している。
しかし、中国共産党政府が日本に対して「歴史の非」を問う反面、「建国の父」である毛沢東が、大躍進運動や文化大革命などで数千万とも言われる自国民を死に追いやってきた事実は、中国国内では蓋をされたままだ。
こうした中国の姿勢に疑問を唱える在米中国系政治学者の論説が、13日付の印インディアン・エクスプレス紙(電子版)に掲載された。筆の主は米ジャーマン・マーシャル財団のミンシン・ペイ上級研究員だ。
「中国の歴史の記憶喪失(China's Historical Amnesia)」と題されたこの論説でペイ氏は、ヒトラーやスターリンに並ぶ虐殺を行ってきた毛沢東が、独裁的で情報の自由がない中国では現在でも奉られていると紹介。毛沢東の死後に生まれた世代が毛沢東時代の悲惨さについて知らないことについて、「歴史を歪曲したり捏造したりする、党のシステマティックな取り組みの巨大な成功」と呼んでいる。
またペイ氏は悪化する日中関係について、「中国は集団としての記憶(collective memory)を失っていると言えるだろう。そのような国は、自国民とも近隣の国とも仲良くすることはできない。我々は、中国の歴史の記憶喪失が生む破壊的な結末のいくつかを、目撃しようとしている」と論じている。
その上でペイ氏は、「歴史の記憶喪失」が危険なナショナリズムを生んでいると指摘。「中国の歴史的な苦しみを生んだ最大の原因として日本を悪者扱いすることで、中国は自らを窮地に追い込んでおり、日本との危険な軍事衝突につながる現在の政策以外に選択肢が無くなっている」と述べた。
中国は安倍首相の靖国神社参拝によって、日中関係が引き返せないところまで悪化したと批判しているが、関係悪化の原因が日本のせいではないことは言うまでもない。毎年10%以上も軍事費を積み増して軍拡に励み、日本の固有の領土である尖閣諸島を「核心的利益」と呼んで領海侵犯などを繰り返す軍事独裁国家を、警戒しない方がおかしいのだ。
日本に対する強硬姿勢は、貧富の差など国内の不満を逸らしたい共産党政府の苦肉の策でもある。しかし、反日教育や情報統制によって国民の洗脳が進んだ代償として、今度は「日本に強気で出る指導者は英雄、弱腰なら売国奴」という極端な風潮を生み、中国の外交政策の手足を縛り始めている。歴史を意図的に「忘れさせられた」国が、自らのナショナリズムを手なずけられずに暴走しつつあるという見方もできるだろう。
「歴史を忘れた民族に未来はない」。中国共産党政府が破滅的な最後を迎える前に、指導者がこの言葉を胸に刻むことを祈りたい。もちろん、スタジアムでこの言葉を持ち出したあの国もだが。(呉)