「もんじゅ」の廃炉はなぜ理不尽なのか?【そもそも解説】
http://the-liberty.com/article.php?item_id=11983 幸福の科学出版
政府は高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)の廃炉を検討しています。その代わりに、「フランスと共同開発している原子炉を研究に用いる」という案なども出ていますが、やはり「もんじゅ」廃炉は理不尽です。
本欄では、その理由について、「もんじゅ」の仕組みや経緯なども含めて解説していきます。
◎3000年の原子力発電を可能にする
まず、「もんじゅ」がどのような原発なのか確認します。
現在、世界で行なわれている原子力発電は、60〜100年間しか続けられないと言われています。燃料となるウランが枯渇してしまうからです。
しかし「高速増殖炉」という新しいタイプの原子炉を使うことで、3000年以上にわたり発電ができるようになります。なぜなら、この原子炉は「増殖」と言われるように、消費した以上の燃料を生み出せるからです。
その研究用の原子炉として建設されたのが、「もんじゅ」でした。
「もんじゅ」が最初に動き始めた20年前には、日本がこの分野で独走していました。以前、記者が「もんじゅ」の開発に携わってきた男性に取材したとき、男性は、日本海から資材が運び込まれ「もんじゅ」が組み立てられていく風景を見ながら、「日本の技術で世界の役にたてるという誇り」を噛み締めたという話を、遠い目をしながら語ってくれました。
◎ナトリウム漏えい事故
そんな「もんじゅ」で事故が相次いだことは、報道でも有名です。しかしそれらは、心配されるような「放射能漏れ」とは程遠いものでした。
今使われている原発では、原子炉で発した熱を、水を使って発電機(タービン)にまで伝えます。一方「もんじゅ」では、水の代わりにナトリウムの液体で、熱を発電機に伝えます。最初に起きた事故は、この液体が漏れるというものでした。この液体には発火性があり、火事になってしまったのです。
しかし、化学物質が漏れて発火する事故は化学工場などでも起きうること。さらに、厚い壁で守られた原子炉に影響を及ぼすものでもありませんでした。
そして何より、こうした失敗を繰り返しながら、知見を蓄積していくことこそ、わざわざ研究用の原子炉「もんじゅ」を建てた目的でした。
しかしこれが、「やはり新しい原発は危ない」という印象を与えてしまいました。
◎相次ぐ事故の不運
ナトリウム漏れ事故からようやく復旧した4カ月後、またしても不幸が「もんじゅ」を襲います。燃料交換の際に使う装置がクレーンから落下したのです。もちろん、この装置は、核分裂が止まっている時にだけ使われるもの。放射能漏れにつながるような事故ではありませんでした。
それでも、事故が続いたことは、「不運」としか言いようがありません。「本質的な安全性には問題ない」という正論が、何となく言い訳がましく聞こえてしまう状況を招いたのは事実です。
◎原子力規制委員会の「嫌がらせ」!?
今回の廃炉論に拍車をかけたのが、福島第1原発事故を契機に当時の民主党政権が生み出した「原子力規制委員会」でした。「もんじゅ」に関して、「また点検漏れ」というような報道を多く目にされた人もいるかと思います。これを同委員会が問題視したのです。
しかし、本当に問題があったのは、「点検項目(保全計画)」の方だと言われています。
福島第1原発事故より前ですが、「もんじゅ」は「点検項目(保全計画)」をたったの2カ月でつくれと要請されたことがありました。
「もんじゅ」側はとり急ぎ、現役の原発の「点検項目(保全計画)」をほぼそのまま引き継いでつくりました。本当に正しい点検項目は、長年の試運転経験がないとつくれないからです。
これが仇になりました。これは車で言うなら、商品化されているガソリン車に求められる点検項目を、水素自動車、それも試運転段階の車に課すような話です。求めるレベルも違えば、設備としての仕様も大きく違います。その結果、様々な不具合が生じ、結果的に、数多くの"点検漏れ"が発生したのです。
しかし原子力規制委員会は、こうした事情を考慮せず、「『もんじゅ』の管理はずさんだ。運営者を変えるか、廃炉も検討しろ」という趣旨の勧告を出し、廃炉の一歩手前まで来ているのです。
さらに原子力規制委員会は、日本中の現役の原発さえも止めるような厳しい安全規制を、ほとんどそのまま「もんじゅ」に課しました。そのため、再稼動には大規模な工事などが必要となり、多額のコストがかかるのが確実視されています。
こうした中で政府内でも、「もう廃炉でいいんじゃないか」という声が増えているのです。
こうした理不尽な対応について関係者からは「『原子力規制委員会はしっかりやっているぞ』というスケープボードにされている印象」という声も漏れ聞こえてきます。
◎廃炉の必要はない
つまり、「もんじゅ」を廃炉にしようとしているのは、「保全計画」「規制委員会の安全規制」の理不尽な厳しさなのです。
その結果、今まで投じてきた1兆円の予算、廃炉に要する3千億とも言われる予算、そして新たな原子炉を建設する際の建設費用を、ドブに捨てようとしています。「もんじゅ」の開発・整備に全人生を懸けてきた方も、大勢います。
ここで新しい原子炉を何十年もかけてつくりなおしたところで、発想の間違いがただされない限り、また同じような「揚げ足とり」で計画が頓挫するのではないでしょうか。(馬場光太郎)
【関連記事】
2015年12月号 日本をエネルギーで支えたい 次世代原発「もんじゅ」に賭ける男たち
http://the-liberty.com/article.php?item_id=10427 幸福の科学出版