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トランプを激怒させたゼレンスキー
2月28日に行われたトランプ・ゼレンスキー会談は、ゼレンスキーがトランプを激怒させたことで、ゼレンスキーは退出させられ、あっけなく幕を閉じた。
副大統領のヴァンスが「平和への道、繁栄への道は外交に取り組むことかもしれない」と述べた後、ゼレンスキーが数年間のロシアの侵略行為に言及し、プーチン大統領について「誰も彼を止められなかった」と述べた。 ヴァンスが「一体どんな外交を言っているんだ? 」、「(我々の外交は)あなたの国の破壊を終わらせるようなもの(をやっている)」と畳みかけると、それを納得しないゼレンスキーに、ヴァンスは無礼だと激怒した。
さらに、ゼレンスキーが「戦争中は誰もが問題を抱えている、あなたもそうだ。しかし、あなたには素晴らしい海があり、今はそれを感じないかもしれないが、将来は感じるだろう」と言い、トランプが戦争の侵略者と交渉する際の道徳的危険を理解していないと示唆した。 そして「ロシアをなだめれば、戦争はあなたに降りかかるだろう。」 と言った。
すると、それに激怒したトランプは、「我々がどう感じるか指図しないでくれ。君にはそれを指示する立場にない」とトランプ氏は声を大にして言った。 トランプは苛立ちながら、「我々はこの愚かな大統領を通じてあなた方に3500億ドルを与えた」 、「君たちは勝てない、これは勝てない」とトランプは語った。さらに、トランプはゼレンスキーに最後通牒のように、「我々のおかげで君たちが無事に終わる可能性は十分にある」 、「態度を変えなければならないので、交渉は難しいものになるだろう」 と告げた。そして、怒りが収まらにトランプは、大統領執務室からゼレンスキーを追い出した。
対等な立場で臨んだゼレンスキーのトランプへの態度は、トランプとの首脳会談に臨んだ他のアメリカ同盟国首脳とは大きく異なっていた。徹底したトランプへのご機嫌伺いに終始した日本の石破茂がその典型だが、 フランスのマクロンも英国のスターマーも、多かれ少なかれ、トランプを怒らせないように、機嫌を取る努力をしていた。それに比べてゼレンスキーは、元喜劇役者の素人政治家ぶりが露呈したのかもしれないが、余りに率直に自己の考えを押し通そうとした。
決定的となったアメリカの軍事支援大幅縮小
以前からトランプは、ウクライナ軍事支援は欧州がやればいいと言っていたが、ウクライナの資源獲得に成功すれば、その見返りにいくらかは軍事支援をしてもいいとは、思っていただろう。しかし、資源獲得協定もできず、激怒しただけで終わった会談からは、思っていた以上にウクライナ軍事支援を激減させることが決定的となった。
会談崩壊後ゼレンスキーは、「アメリカの支援に感謝している」とツイートしたものの、トランプへの謝罪は拒否した。FOXニューでこの論争は「双方にとって良くない」とも認めたが、後悔しても遅い。
これに対するロシアの反応は、安全保障会議の副議長のドミトリー・メドベージェフ元大統領が、ゼレンスキーを「傲慢な豚」と呼び、「大統領執務室できちんとしたお仕置きを受けた」と語ったように、ロシアの主張に近い和平交渉が、米ロで進んでいることに余裕をもって見守っている。
ウクライナ支援の立場を変えていない欧州諸国首脳は、ハンガリーの極右オルバンを除き、ほとんどがゼレンスキー擁護を表明した。それは、アメリカの支援が途絶えたとしても、欧州はウクライナ軍事支援を継続するという意味である。それでも、英国のスターマーやフランスのマクロンは、和平交渉が成立した後の、「平和維持部隊」に自国の兵士の派遣を、既に表明していた。アメリカの軍事支援なしで、現在のウクライナにロシア軍を押しとどめるほどの軍事力を、欧州が提供できないのを見通してのことである。渋々でも、トランプの和平交渉を見守るしかないのを理解しているのである。
アメリカ抜きの核兵器を除いた欧州側の軍事力が、ロシアに勝っているのは間違いない。しかしそれは、欧州軍が派兵され、ロシア軍と直接戦闘に陥った場合のことである。2024年に、ロシアの砲弾生産量は、米欧のウクライナ向け生産能力の3倍に達していると報道されている。アメリカを含んだこの数字は、欧州はさらに少ない砲弾を含む武器・弾薬しかウクライナに供給できないことを示しており、アメリカなしでは、到底、ウクライナ軍のロシア軍との戦争を支援できないことは明白なのである。
トランプに従わざるを得ないゼレンスキーと欧州
ゼレンスキーも欧州首脳も、渋々、トランプの和平交渉を待つとしても、肝心の和平交渉自体は、2月18日のサウジアラビアでの米ロ高官会議でも、何も明らかになってはいない。ロシア側の要求は、現支配地域の維持とウクライナの軍事的中立化が基本になっているのは、ロシアのラブロフ外相の発言でも明らかだが、和平後のNATO加盟国軍のウクライナ駐留も拒否している。余裕のあるロシア側は、さらに都合のいい条件を出し、自分の意向を貫きたいトランプはそれを飲むかもしれない。
それは、ゼレンスキーにとっても欧州にとっても、受け入れがたいものだ。しかし、それでもトランプに従わざるを得ない。欧州は、ウクライナに関する限りロシアに対抗し、抑止能力としての軍事力を持っていないからだ。ロシアは、GDPの6.7%を軍事費に注ぐ戦争経済体制を確立しているが、欧州は2%前後に過ぎない。トランプやNATO事務総長ルッテの要求どおりGDP3~5%に引き上げるのには、数年どころか、社会保障の崩壊や国家債務の増大、社会混乱から中道リベラルの言う権威主義体制に成りかねず、不可能に近い。
この戦争は、国家は生存のために際限のない拡張行動を採ることが求められるという攻撃的リアリズムを主張するシカコ大学のジョン・ミアシャイマーの言うとおり、「ウクライナは初めから勝てない戦争」という様相が鮮明になりつつある。その「現実」を、ゼレンスキーも欧州指導者も、トランプの前任バイデンも直視しようとしなかった。国際法違反(アメリカ政府も度々国際法違反を繰り返しているにもかかわらず)の侵略者プーチンは、負けなけれならなないと呪文のように唱えるだかけだった。今になって、その「現実」が、彼らに重くのしかかってきているのである。
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