夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

コロナ危機「ワクチン接種が始まったが、行動制限を緩めることはできない」

2020-12-21 18:27:55 | 政治
 世界中で第3波の高止まり
 12月18日、スウェーデン国王が、自国のコロナ対策を失敗したと思うと述べた。スウェーデンは他の欧州諸国に比べ、人びとに極めて緩やかな行動制限しか課さなかったが、10月頃までは、大きな感染拡大が見られずに推移していた。そのため一時は、集団免疫の可否の問題を除けば、経済と感染防止の両立がうまくいってる国として見られていた。英紙ガーディアンも、10月に持続可能な政策として好意的な記事を載せていた。ところが11月になって死者数が急増し、政府の対応もマスク着用義務化など規制の強化の方向に方針転換せざるを得なくなったのだ。もともと、生活様式や医療水準が同じような隣国のノルウェーやフィンランドに比べ、人口比で9~10倍の死者数を出していることも問題にされたためである。結局、行動制限をしなければ、感染は拡大し続けることを示したことになる。
 世界中で、中国や台湾、ニュージーランド等のごく一部の国や地域を除いて、状況は悪くなる一方である。アメリカは感染確認数と死者数が記録更新を続け、欧州諸国も再度、再再度のロックダウンをせざるを得ない状況であり、インド、中南米も毎日多くの死者を出し続けている。日本も第3波の高止まりから抜け出せないでいる。
 世界的な意味でのおおよその傾向として、日本もそうなのだが、右派は経済を重視する立場から厳しい規制を躊躇し、左派は行動制限とそれによる生活補償を要求する。例を挙げれば、右派のトランプ、ブラジルのボルソナロは、危険性を軽視し、行動制限には反対であり、ニュージーランドの左派労働党政権は、当初から厳しい行動制限を実施した。例外はあるが、概ね、政治的左右の立場の違いは、そのようになっている。その他の国の対策は、その間を行ったり来たりしている。感染がいくらか治まると、経済の再開要請から行動制限を解除し、それが感染拡大をもたらすという悪循環を繰り返す終わりのない暗闇を進んでいる。その状況で、英国と米国で始まったワクチン実用接種は、暗闇での光のように見える。

 ワクチンは楽観視できない
 しかし、実際のワクチン投与は、すぐに感染拡大防止の効果を発揮するほど、楽観視できるわけではない。ワクチンは国民への投与によって「集団免疫を」を獲得し、コロナウィルスを封じ込めるのが狙いだが、「世界保健機関(WHO)の専門家は、ワクチンによって集団免疫を達成する方法として、65─70%の接種率」(ロイター12月18日)が必要だという。 しかし、この「65-70%」という接種率は、一般論としてワクチンの有効性が極めて高いという前提のものであって、現在開発されているワクチンは、短期間での有効性だけで長期的には未知であり、やってみなければ分からないという要素を含んでいる。
 日本では、厚生労働省が来年3月から接種を始められるよう検討しており、6月末までにファイザーから6000万人分の供給を受ける基本合意を結んでいる 。恐らくは、春ごろから優先順に始まるものと思われる。では、いつ頃にWHOの言う65-70%の接種率に達するかというと、まったく予想がつかない。ワクチンの副反応は必ず起こるのであり、それがどの程度の規模なのか、どの程度の危険性なのか、また、それに対する人びとの反応がどのようなものになるのか、まったく予想がつかないからだ。脆弱な接種体制しかできなければ、人びとの疑心はさらに増幅し、接種を拒否する人は増える。それによって、社会的な感染拡大防止の効果が発揮できる水準の接種率に達するには、さらに期間が必要となる。オリンピック開催時期までのワクチンによる「正常化」など、夢のまた夢の話である。
 また、ワクチン接種は、感染しづらくなる、重症化しづらくなる、というだけで、感染しないというものではない。PCR検査陰性と同様に、100%感染していない、100%感染しないということを保証するもではない。ワクチンを接種してもしなくても、感染予防はしなくてはならないのである。
 来年も、日本のみならず、世界中は、ワクチンは一つの希望の光だが、持続的でかつ科学的合理性のある行動制限が要求されるだろう。
 
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