4月22日、ブルームバーグが次のように報じた。
EUから日本へ、1月31日から4月19日までに、5230万回分のワクチンが輸出されたというのだ。この報道に早速、英紙ガーディアンが、「東京のEU事務当局に確認し、数字は間違いない」と報道した。
The Guardian 23 April
本当なのだろうか? 日本のこれまでのワクチン接種状況は、NHKによれば、4月29日現在で累計349万回であり、これでは、ざっと4800万回分のワクチンが、日本のどこかに眠っているのか、消えたことになる。
これに対して、河野ワクチン担当大臣は4月27日にtwitterで「数字がだいぶ違う」という。
実際はどういうことなのだろうか? そこで駐日EU代表部の公式ウェブマガジンを見ると、「EUは日本に対し、4月19日までに約5,230万回分のワクチンの輸出を承認しています 」となっているのだ。
Europe magazine EU MAG
要するに、ブルームバーグもガーディアンも、「承認」に過ぎないものを「輸出」としているのだ。<exported>となっているのだから、完全に誤報である。では実際には、既に日本には何回分届いているのだろうか? これは、厚労省も明らかにしていない。しかし、4月23日に首相官邸は次のようにtwitterで書いている。
4月末までに、ファイザーから33,553箱が輸入されるというのである。厚労省によれば、1箱にはワクチンバイアル(瓶のこと)195本が入り、5回接種できるとして975回分が入っているという(6回接種できればさらに多い)。単純に計算すれば、3271万4175回分である。4月23日のtwitterで4月末までというのだから、まだ全量届いているのではではないことは推測できる。ワクチン到着のニュースは、今まで何回かあり、4月5日には11回目の200万回分が届いたという。その後のファイザー製ワクチンの到着ニュースは皆無で、マスメディアの情報は極めて少ないが、日経新聞は、4月5日時点で累計856万回分となり、4月到着分で1226万回、4月末までに、2000万回分弱が調達されるとしている(日経新聞「チャートで見る日本の接種状況」)。この数字は、首相官邸のtwitterと比べると1000万回分以上少ない。どちらが正しいのか、ということになるが、首相官邸はまったく信用できず、はったりの可能性が高い。厚労省も調達済み実績は公表していないので、推測するしかないのだが、日経新聞の言うとおり、4月中に2000万回弱が輸入されていると思われる。
厚労省の4月2日付けのワクチン配送スケジュールによれば、医療従事者用に4月19日の週までに、3月からの累計で1回目分3800箱(380万回、1バイアル5回と6回があるので平均1箱1000回分と計算)、2回目分1400箱(140万回)を配送し、住民高齢者用に4月26日の週で累計2841箱(280万回)としている。合計すれば、およそ800万回となる。
問題は、3月末までに300万回分程度は到着しており、4月にも続々と到着する込みがありながら、4月までに800万回程度の供給しかできないことである。そのそも、800万回分というのも、4月初旬作成の予定であり、接種実績が350万回であることを考えれば、実際の供給量ははるかに少ないと考えられる。
ファイザー製ワクチンは、空港で輸入された後、冷凍技術を持つ業者の倉庫に保管され、各自治体へは、人口・感染状況を考慮に入れながらも、先に問い合わせた各自治体の希望量に沿って配給される。その配給も冷凍・冷蔵の状態が求められるので、専門的知識と技術が要求される。そのことを考えれば、日本到着から最終接種場所までには、ある程度の日数は要する。しかし、海外であは、自国到着から配給までは、1週間から2週間である。例えば、NHKワールドニュースによれば、ブラジルで4月28日にファイザー製ワクチンが100万回分が空港に到着したが、ブラジル当局は、50万回分を2度に分け、翌週には供給するとしている。日本の空港到着から供給は、際立って遅い。恐らくそれは、備蓄から配給までの現場の処理能力が馬鹿げているほど遅いからである。厚労省の実際に動く現場での公務員は、業務量に比べ、驚くほど人員が少ないことは知られている。また、ワクチンは貴重品並みの重要性があるので、どこにどのくらい管理されているのかなど、供給過程を明らかにすることはできない。それをいいことに、専門的業者の不足など、処理能力の低さを隠すことも可能なのだ。
政府は、5月連休明けから、ワクチン供給量を大幅に増やすとしている。河野大臣は、記者会見で次のように述べた。
この発言も、実際の調達量を明らかにしていないので、「足りない」というのは、具体的にどの段階で「足りない」のかは、不明である。
日本政府は、ワクチン調達に世界でも稀にみるほど、遅かった。それに加え、ワクチン供給体制も、稀に見るほど貧弱であることは否めない。
欧米は、ワクチンによって早いところで7月から、日常生活を取り戻すことが可能である。秋ごろには、ぞくぞくと正常化に戻る国が現れるだろう。しかしながら、後手後手の政府のために、日本国民が暗闇から脱するのは、はるか先になりそうだ。