夏原 想の少数異見 ーすべてを疑えー

混迷する世界で「真実はこの一点にあるとまでは断定できないが、おぼろげながらこの辺にありそうだ」を自分自身の言葉で追求する

アメリカTikTok禁止 アメリカでは、国家安全保障が民主主義より優先する。今も、昔も。

2025-01-21 09:15:11 | 社会

 アメリカには、TikTokユーザーが2024年12月現在で1億5000万人いる。YouTube2億4000万人、 FaceBook1億9000万人に比べると少ないが、他のSNSユーザーとの違いは、TikTokのユーザーは、圧倒的に10代から20代の若年層が多いことである。

 TikTok禁止法案は、2024年4月にアメリカ上下両院で可決され、バイデン大統領が署名し、12月に連邦控訴裁判所と米国最高裁判所がその根拠を認めたものである。法案は、”Protecting Americans From Foreign Adversary Controlled Applications Act ”(外国の敵対者が管理するアプリケーションから米国人を保護する法)で、 そこには“This bill prohibits distributing, maintaining, or providing internet hosting services for a foreign adversary controlled application (eg, TikTok).” (この法案は、外国の敵対者が管理するアプリケーション(例:TikTok)の配布、維持、またはインターネットホスティングサービスの提供を禁止する )となっている。
 この「外国の敵対者」とは中国政府、中国共産党のことであるのは言うまでもなく、中国は敵だとあからさまに公言したのと同じことである。要するに、TikTokは中国企業のByteDanceが所有しているので、中国政府がTikTokからデータを盗み出し、利用しようとしているから禁止しろ、ということである。
 しかし、アメリカ政府はそのデータ収集の証拠となるものを何一つ提示していない。それは、最高裁でアメリカ司法長官が、「”covert manipulation ”(秘密操作)で行われている」と言っただけである。国家安全保障上のcovert秘密と言えば、すべてがまかり通るのである。そもそも、中国政府による「TickTok悪用の懸念」を言い始めたのは、アメリカの情報当局ではなく、政治家なのである。そこには、中国は悪い国だから、悪いことをするに違いない、という憶測があるだけで、法も論理も無茶苦茶としか言いようがない。一言で言えば、国家安全保障上の利益は、すべてに優先する、ということである。

 TikTok禁止を提唱し始めたは、共和党の政治家が先であり、トランプも禁止に賛成していた。それが、民主党にまで広がっていったのは、TikTokが、10代、20代のユーザーが多く、その中のパレスチナ支持派が主に使用しているからだと考えるのが、妥当である。ガザでのイスラエルによる大虐殺を事実上容認し、イスラエルに大量の兵器供給をやめようとしないバイデン政権とその延長にあるカマラ・ハリスが大統領選で敗北したのは、パレスチナ支持派の大量のSNS、TikTok使用の影響が大きいことは、マスメディアでも絶えず指摘されていた。例えば、全米の大学でパレスチナ支持デモが盛んになり、それを弾圧する大学と警察当局の動画は、TikTokで主に流されていたのである。

 アメリカ以外では、欧州議会をはじめとするヨーロッパ諸国やオーストラリアで政府関係職員のTikTok使用を禁じている例はある。しかし、国民の使用を禁じる法を制定したのは、西側の「自由民主主義国」ではアメリカだけである。それは、中国政府のTikTokによる諜報活動の確たる証拠がないためであり、何よりも言論の自由に抵触する恐れがあるためである。
 ほとんどの西側マスメディアは、この「言論の自由」の問題は、TikTok側が主張しているとしか報道せず、マスメディア側の見解ではないと暗に報じている。これを「言論の自由」の問題と扱っているのは、The Interceptなど一部のwebニュースサイトだけである。The Interceptには、過去には、バラク・オバマの「米国では、インターネットが自由に利用できる、あるいは制限のないインターネットアクセスがあるという事実は強さの源であり、奨励されるべきだと思う」と発言したことを指摘し、 中国が、自国の国益のため、西側のネットを遮断していることを挙げ、アメリカも「中国と似たような存在になりつつある。」と批判する記事が掲載されている。このような意見はマスメディアでは、極めて例外と言える。
 
 2025年1月19日にTikTok運営者は、一度閉鎖した再開を半日で再開した。当初、禁止に賛成していたトランプが、「何をしでかすか分からない男」らしく、禁止に反対し、就任直後の大統領令で猶予期間を設けると発言したためである。その理由は、「言論の自由」からなのではなく、恐らく、TikTokユーザーを自陣に取り込みたいという政治的な目的からだろう。いずれにしても、バイデンであれ、トランプであれ、すべては政治的な理由から決定されるのである。
 
 兎にも角にも、所謂「二重基準」でも分かるように、アメリカの政策は常に政治的であり、国家安全保障を持ち出せば、民主主義であれ、人権であれ、法治主義であれ、それらは二番目の価値だと見做されるのである。

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