楽しいブログ生活

日々感じた心の軌跡と手作りの品々のコレクション

「幽囚転転」

2016-05-09 21:44:35 | 
って言っても分かる人はまずいないでしょうね。
今月の課題図書で、また古~い作品。これも県立図書館にしかなく、持ち出し禁止。(なのでコピーをもらいました)
第25回オール読物新人賞受賞作でやはり徳島の作家、中川静子さんの小説です。
1964年の発表ですから、半世紀も前の作品になります。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説をコピペして主人公、堀田正信のアウトラインをご紹介すると

「江戸前期の下総(しもうさ)国(千葉県)佐倉藩主。堀田正盛(まさもり)長子、通称与一郎。1644年(正保1)従(じゅ)五位下上野介(こうずけのすけ)に叙任、51年(慶安4)8月14日将軍徳川家光(いえみつ)に殉死した正盛の遺跡を継ぐ。著名な佐倉惣五郎(そうごろう)事件は、正信治世中のことといわれる。60年(万治3)10月、将軍家綱(いえつな)に老中松平信綱(のぶつな)を中心とする幕政批判書を上呈し、無断で佐倉へ帰国した。これにより幕府は正信狂気とし、所領を没収し弟の信濃(しなの)国(長野県)飯田(いいだ)藩脇坂安政(わきざかやすまさ)へ預けた。のち若狭(わかさ)国(福井県)小浜(おばま)藩酒井氏から阿波(あわ)国徳島藩蜂須賀(はちすか)氏に移され、ここで「忠義士抜書」などを書いたが、延宝(えんぽう)8年5月20日、家綱の死を聞いて自殺、50歳。法名忠三、江戸浅草の金蔵(こんぞう)寺に葬した。」

とあります。

で、作者は、この堀田正信が阿波に流され自刃したことを知って、転々と放浪生活をして孤独な身である自分自身を重ね合わせ、史料を元にその鬱屈した正信の人生を小説にしたんですね。

正信には一人だけ数馬という家来がつき従い、数馬は主人の最後を息を詰め端坐して見守ります。
さて、今の御時世なら男ふたり、ボーイズラブの匂いをちらつかせながら、おもしろおかしくお話を膨らませるのもアリかも分かりませんが、文体も端然と真面目なら、登場人物たちもそれなりの風格を持って、古色の中に息付いています。

ただ、自由の利かない預かりの身分で、何の希望や夢が見出せたろうかとは思いながらも、幕政批判をするほどの人物が、もっと大局的で、構造的な思想を展開できなかったのか、主従の関係とは言え、数馬との会話の中で、もっとお互いの心の有りよう、細かい感情の襞を表現できなかったのかという注文がましい気持ちがないことはなかったです。

はっとしたのが、長いこと女っ気のない主従の生活のなかに、突然、女性(にょしょう)が登場すると途端に世界がなまめかしい雰囲気に変わるんですね。不満もなかったモノクロ画面に色が差し、ああ、この世はやはり、男と女、望むと望まぬにかかわらず両性揃ってこそ世界は回っているんだと胸をつかれました。

海野十三の作品を読んでますとどうしてもアイディア重視ということで、文学とはほど遠いジュブナイル向けのような稚拙な文章が気にさわって苦痛に感じることが往々にしてあります。

その点、考証がしっかりしてて、文章そのものに魅力を感じながら読めるというのは、筆力があるということなんでしょうね、本来の読書の楽しさを提供してもらいました。

余談なんですが、おおまかに分けて「オール読物」は文芸春秋社が出してる娯楽小説の、「文学界」は純文学の発表の場ということらしいですね。
つまり、直木賞を狙うか芥川賞を狙うかで発表の場が違ってくるんですね。
でも、純文学ってカテゴリーまだ生きているんですかね。

コメント
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