【連載】頑張れ!ニッポン㉖
昨年の半導体売上で不調だった欧州と日本
釜原紘一(日本電子デバイス産業協会監事)

▲半導体デバイスの一例(SIAのHPより)
19.1%も増えた世界の半導体売上高
最近、半導体に関する2つの発表があった。ひとつはSIA(Semiconductor Industry Association:米国半導体工業会)から発表の2024年の世界市場での半導体売上実績に関するものである。もうひとつは米国の調査会社ガートナー(Gartner)が発表した2024年世界半導体売上ランキングである。
SIAの発表によれば、2024年(1月~12月)の世界の半導体売上高は前年比19.1%増の6276億ドル(1ドル150円換算で94兆円)となったとのことである。地域別の伸び率は、米州が前年比44.8%増、中国が18.3%増、アジア・パシフィックが12.5%増と伸びた。が、その反面、欧州は8.1%減、日本は0.4%減と明暗を分けた。日本の中にいると、米国やアジア地域での活況を実感する事は難しいかも知れない。
日本の半導体企業の売上が伸び悩んでいるのは、半導体を使用する電子機器の国内生産の伸びが少ない事や、海外で伸びている顧客を十分に獲得できていない事によると思われる。近年、最も半導体を消費しているのはスマホやパソコン及びデータセンターなどだが、これらの分野における日本メーカーの生産は残念ながら決して多くはない。
▲2005年~2025年までの1月の世界半導体の売上成長率(WSTSより)

▲2024年/2023年の半導体メーカー売上高世界ランキング(Gartnerが2025年2月に発表)
優秀な中国人エンジニア
ところで、米国内でスマホやパソコンの生産が多いのかと言うと、そうでもないようだ。半導体の調達は米国で行って、それを海外の生産拠点に送っている事がある。その場合、半導体売上は米国市場向けとして計上される。それがWSTS統計での規則であり、SIAはWSTS統計実績値に基づいて発表を行っている。
だから米国半導体市場が伸びたとしても、必ずしも米国内で電子機器の生産が伸びたとは言えない。例えばアップルはiPhoneやiPadの多くを中国で生産している。河南省にフォックスコーン(鴻海精密工業:台湾本社)の巨大生産拠点があり、アップルはそこに生産委託している。昔は安い労働力を求めて中国に進出していたが、そんな時代はとっくに過ぎており、賃金と言う点では日本の方が安いかも知れない位だ。

▲iPhoneを生産するフォックスコン(ForbsジャパンのHPより)
では、何故中国なのか?
『工場タイムズ』によるとー
「中国では優秀なエンジニアが大量に雇えるのがひとつの魅力。米国でiPhoneをつくろうとしたら、約9000人のエンジニアが必要と言われているが、それだけの人を集めるには何カ月もの時間がかかる。中国なら、わずか2週間で集めることができる。圧倒的なエンジニアの数と、それに伴う生産能力の高さが中国にはある。また、各種部材、部品のサプライチェーンも充実しているので、製造委託者側からの様々な要求に対応できる体制ができている」
売上好調の外国メーカーに比べて日本は…
次にガートナーによる2024年世界売上ランキングを紹介する。米国の調査会社ガートナーは、2024年の世界の半導体市場が23年比18%増の6260億ドル(約97兆円)だったとの推計を発表した。生成A I向けの画像処理半導体(GPU)などの高性能チップの需要が、半導体市場の伸びを牽引したという。
個別企業では、米国インテルの苦戦が目立つ中、韓国サムスン電子が売上高665.2億ドル(9兆9800億円)の実績を上げて2年ぶりに首位となった。サムスンは主力製品のメモリ(DRAM)の価格上昇による売り上げ増が好調の要因とのことである。
対してインテルは以前にも報告したように、AI向けの販売が振るわなかったとので、売上高492.9億ドル(7兆3935億円)に留まり、前年の首位から2位に後退した。3位は急成長を続けているエヌビディアで、前年の5位から浮上し、売上高459.88億ドル(6兆8982億円)を記録した。
データセンター向けGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)が好調を続け、2025年も高い成長が続くと予想されている。さらに注目したいのは、韓国のSKハイニクスの成長である。以前報告したように、SKハイニクスはエヌビディアのGPUに必要とされるHBM(ハイバンドメモリ)の製品化にいち早く成功し、前年6位から4位に浮上し4248.24億ドル(6兆4236億円)の売り上げを達成している。
上位10社にも入らない日本のメーカー
残念ながら、上位10社に日本のメーカの名前が見当たらない。そこで日本勢の2024年の業績を見ると、先ずソニーの半導体の売り上げは前年比1%増の1兆7900億円と見込まれており、イメージセンサの売り上げ好調によりまずまずの業績である。
キオクシアの2024年売上高は前年比5%増の1兆3594億円とみこまれており、フラッシュメモリの好調な需要により堅調な売り上げを維持している。ところが、ルネサスの昨年の業績は悪化しており売上高は前年比8.3%減の1兆3482億円と振るわない。当社が得意とする自動車関連でEV車の伸び鈍化や、国内自動車の需要鈍化の影響もあるようだ。
日本政府は、台湾の半導体製造大手TSMCの工場誘致に対して熊本県への進出を促進するために膨大な資金を投入している。また、最先端製造技術の追求を目的とした新会社ラピダスの設立支援も行っている。しかし、これらに加え、既存の半導体企業が大きく成長して行く事も必要である。日本半導体復活への道はまだまだ遠い。

【釜原紘一(かまはら こういち)さんのプロフィール】
昭和15(1940)年12月、高知県室戸市に生まれる。父親の仕事の関係で幼少期に福岡(博多)、東京(世田谷上馬)、埼玉(浦和)、新京(旧満洲国の首都、現在の中国吉林省・長春)などを転々とし、昭和19(1944)年に帰国、室戸市で終戦を迎える。小学2年の時に上京し、少年期から大学卒業までを東京で過ごす。昭和39(1964)年3月、早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業。同年4月、三菱電機(株)に入社後、兵庫県伊丹市の半導体工場に配属され、電力用半導体の開発・設計・製造に携わる。昭和57(1982)年3月、福岡市に電力半導体工場が移転したことで福岡へ。昭和60(1985)年10月、電力半導体製造課長を最後に本社に移り、半導体マーケティング部長として半導体全般のグローバルな調査・分析に従事。同時に業界活動にも携わり、EIAJ(社団法人日本電子機械工業会)の調査統計委員長、中国半導体調査団団長、WSTS(世界半導体市場統計)日本協議会会長などを務めた。平成13(2001)年3月に定年退職後、社団法人日本半導体ベンチャー協会常務理事・事務局長に就任。平成25(2013)年10月、同協会が発展的解消となり、(一社)日本電子デバイス産業協会が発足すると同時に監事を拝命し今日に至る。白井市では白井稲門会副会長、白井シニアライオンズクラブ会長などを務めた。本ブログには、平成6年5月23日~8月31日まで「【連載】半導体一筋60年」(平成6年5月23日~8月31日)を15回にわたって執筆し好評を博す。趣味は、音楽鑑賞(クラシックから演歌まで)、旅行(国内、海外)。好きな食べ物は、麺類(蕎麦、ラーメン、うどん、そうめん、パスタなど長いもの全般)とカツオのたたき(但しスーパーで売っているものは食べない)