白井健康元気村

千葉県白井市での健康教室をはじめ、旅行、グルメ、パークゴルフ、パーティーなどの情報や各種コラムを満載。

ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(中)

2019-01-14 12:18:54 | 【短期集中連載】ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱

【短期集中連載】

ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱(中)

免疫について 

 

   横山祐作 (東邦大学名誉教授)

 

 前回、本庶先生のノーベル賞受賞の功績は「免疫療法による新しい癌治療薬(オプジーボ)の発見」と書きました。本庶先生の業績を理解するためには 「免疫」というキーワードが重要になります。そこで今回は免疫について少し詳しく書きたいと思います。

 人間は毎日、外界から大量の病原菌、毒素にさらされ、さらに体内でもがん細胞などの異常な細胞が発生しています。それでも人間が健康でいられるのは、免疫のシステムが存在しているからです。免疫は生命体を外敵から守るために、自然が何十億年も掛けて作り上げた生体の自己防御の非常に精密で複雑なシステムです。

 免疫は癌だけではなく多くの治療困難な病気にも大きく関係しています。もし、免疫システムが破壊されると、私たちは生きていけません。エイズはウィルスによって免疫のシステムが破壊されるために、外界からの病原菌を撃退することが出来ず、重篤な病気になって死に至るのです。

 一方、この免疫反応が働きすぎると正常な細胞も破壊してしまい、膠原病、関節リウマチ、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患、多発性硬化症など治療の大変難しい病気を発症します。この様に免疫は、複雑なバランスの上に立った精密な生体防御のシステムなのです。

 免疫の役目の一つが,人体に有害な細胞(病原菌、癌細胞など)の排除です。人間の体は、毎日膨大な数の細胞が細胞分裂によって入れ替わります。人間の体も完璧ではないので、異常な細胞(癌細胞)が必ず発生します。しかし、大部分の癌細胞は免疫細胞の働きで殺されてしまいます。ところが、一部の癌細胞は、この免疫の仕組みから逃れて無制限に増殖し、癌を発症するのです。

 何故、癌細胞は免疫細胞の攻撃を逃れることが出来るのでしょうか? 

 これを理解するためには,免疫細胞が自己の細胞と外敵となる細胞を区別する仕組みを知る必要があります。

 免疫細胞には外敵を見分けるための鍵がついています。それを専門用語でPD-1と呼んでいます。正常な細胞は、このPD-1にくっつく目印(PD-L1)を持っています。このために免疫細胞から攻撃されません(図1-A参照)。

 この目印を持っていない病原菌や癌細胞などは,外敵と見なされ免疫細胞に攻撃されて殺されてしまいます(図1-B参照)。本庶先生は、免疫細胞上に存在する鍵(PD-1)と正常細胞上の目印(PD-L1)が両方ともタンパク質の一種であることを明らかにしました。この発見は、免疫という基本的な生命現象の仕組を解明したとして、世界中で大きな注目を浴びました。

 さらに、本庶先生は、ある種の癌細胞の中には免疫細胞から逃れる目印(PD-L1)を持っている事も見出しました。この癌細胞は免疫細胞からから逃れて増殖することができるのです(図2-A参照)。

 本庶先生はこの発見が癌の治療に応用出来るのではないかと考えました。即ち、免疫細胞についている鍵(PD-1)を覆ってしまえば、癌細胞の目印(PD-L1)にくっつくことが出来なくなり、免疫細胞が癌細胞を攻撃する事が出来る、と考えたのです。

 鍵を覆う役目のタンパク質がオプジーボです(図2-B参照)。基礎研究によってPD-1あるいはPD-L1と言ったタンパク質の構造が明らかになったからこそ、オプジーボの発見につながったのです。

 

 

 今回は、免疫の仕組みと本庶先生の業績の関係について考えました。また、オプジーボという抗がん剤の作用機序についても説明しました。私は、オプジーボという薬が偶然に見つかったのではなく、免疫の基本がしっかり理解されたからこそ開発することが出来たと考えています。

 さて、皆さんはオプジーボの作用機序からオプジーボの副作用が予測できることにお気づきでしょうか。次回はオプジーボの抗がん剤としての限界、オプジーボの開発物語についても書きたいと思います。

 

横山祐作氏の略歴

昭和451970)年に千葉大学薬学部薬学科を卒業し、東京大学大学院薬学系研究科製薬化学専攻の修士課程に入学。昭和501975)年、同博士課程を終了して薬学博士に。その後、城西大学薬学部助手、米ペンシルバニア州ピッツバーグ大学博士研究員、東邦大学薬学部助教授、東邦大学薬学部教授を歴任、平成29(2017)年まで日本薬学会の常任理事を務めた。現在、東邦大学名誉教授。

 


この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
«  「歩こう会」で元気をもらう... | トップ | 成人になるとは  岩崎邦子... »
最新の画像もっと見る

【短期集中連載】ノーベル賞を受賞した本庶佑教授の憂鬱」カテゴリの最新記事