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「楽園」の落とし穴  岩崎邦子の「日々悠々」(54)

2019-10-18 06:48:43 | 【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」

【連載エッセー】岩崎邦子の「日々悠々」(54)

「楽園」の落とし穴               

    

   10月12日からの三連休に超大型の台風19号が東日本で大暴れした。先日の台風15号では、千葉県南部での長引く停電、さらに風による家々の修復もままならない。なのに、その大きな痛手をあざ笑うような、さらなる大型が襲ってくるとは……。

   交通機関などの計画運休はもちろん、この間に予定の行事や旅行などは中止を余儀なくされた。停電対策として、水や食料品などの売り場は売り切れ状態となり、どの店のレジも大行列である。関東で雨・風が最も強くなるのは、12日の土曜日との予報に、私は朝からどこにも出かけることなく、テレビの前でパッチワークの手仕事をするのみ。

   天気図による台風の進路では、「えー、ひょっとすると、我が家の上空に?」と心配する。今度の台風は何といっても大雨となって降雨量がとんでもなく多い。刻々と伝えられる台風状況に交じって「命を守るための行動を!」の呼びかけは、事態の深刻さを物語っていた。山沿いや河川の近くが住まいとなっている人たちの恐怖心は、如何ばかりであろうか。

   厳戒注意報は関東の1都7県に出ているのに、予測した千葉県に出ないことを不思議に思う。夕方から窓を打ち付ける風の強さや雨音に驚くが、夫が行った我が家なりの対策は出来ていることで、何とか眠りにつく。

 台風一過となった日曜日の朝、東の空から眩しい陽光が差し込み、目の覚めるような青空が広がっていた。北の空には筑波山の稜線もくっきりと見えて美しい。雨粒で濡れた窓やベランダも異常はなし、東や南側の窓から見下ろす光景も問題はないようだ。

 テレビをつけると、千曲川が決壊して泥水が住宅地に流れ込む映像が映し出されていて驚いた。「長野県って警戒区域だっけ?」とまずは思った。なんと北陸新幹線の車両が何両も泥水につかっているではないか。

   次々と報道される事態に、ただただ驚愕するばかり。この度の台風19号は尋常でない雨量となり、関東から東北へと移った。多摩川、秋山川、那珂川、阿武隈川など、大小37の河川が氾濫、堤防決壊は52カ所にもなり、住宅地にまで流れ込んでいるという。

   汚泥まみれの目を塞ぎたくなるよう惨状が、次々と映し出されていく。この情景はあまりにも広範囲であり、犠牲者の数も増え続ける。そして各地の甚大な被害状況・惨状の取材状況が日々を追って、更新された。

   この水難騒ぎと停電は、地方都市だけではない。多摩川の氾濫は世田谷にも、調布、武蔵小杉などにも、影響を及ぼしている。景観を重視して多摩川に堤防を作ることの反対者の意向が取り入れられたという。

   いずれにしても、憧れの高級住宅街や、たくさんの路線が入り組んで住みやすさ抜群とされる、武蔵小杉のタワーマンションにも被害が及んだ。年々、大型で強烈な台風の襲来が増えているとの数字が出ているが、はたして地球温暖化が原因なのか。

 定年を迎えた人が、都会を離れ田舎暮らしの決心をして、そこを「楽園」として暮らしているテレビ番組がある。山や川があって、田畑が広がり木々の緑も美しい景色。青い海がすぐ目の前にあって、遥かな眺めに「何て良い所」と思わせてくれる。

   だが、待てよ! お天気が良くて季節も良い頃の取材が多いからであって、寒い冬や天気が悪い時には、どうなの? それに医療機関は大丈夫なのか? 住めば都というが、人は居心地の良さを求め、そこを「楽園」としたいのだ。だが、何が起きるか分からないのも事実。この度の災難には心から同情するが、当事者の方々には、悲嘆にくれることも、立ち止まってもいられない時でもある。

   関東地方から台風が去った14日にラグビーW杯のスコットランド戦が行われた。見事、日本代表が勝利したので、日本列島が湧きに湧く。これで決勝T進出が決まった。日本が初めて8強入りしたのである。あるテレビ・キャスターの「日本中に勇気を与えるプレーだった」の言葉が心に沁みた。まさに「頑張れ日本!」の時だ。


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