整形外科医が教える体メンテナンス⑷
高齢者も筋トレとプロテインを
医療ジャーナリスト・油井香代子
▲白井健康元気村の健康教室で講演する油井香代子さん(白井市文化会館、2023年1月15日)
高齢者の骨折は寿命を縮めるとよく言われます。骨折で入院した高齢者のなかには認知機能が低下し、そのまま寝たきりになる人も少なくありません。骨折・転倒は要介護の原因のひとつとなっているのです(厚労省「国民生活基礎調査」2022年)。
「ロコモ(運動器症候群)になると、骨折・転倒が起こりやすくなり、さらにロコモを悪化させます。骨折やケガで入院した中高年の患者さんのほとんどは、退院の時、完全に元の健康体には戻りません。歩行がおぼつかなくなるし、足を引きずるようになり、杖を手放せなくなる。認知機能が低下する人もいます」
整形外科専門医の加藤敦史氏(千葉白井病院整形外科・人工関節センター長)はこう話します。
加藤医師によると、歩くのが困難になると外出が減って人に会わなくなり、認知症やうつになるリスクも増すそうです。ロコモ予防は認知症予防にもつながるのです。
「ロコモになる原因のひとつに筋肉量の減少(サルコペニア)があります。筋肉量は40歳を過ぎると減少し始めます。何もしないでいると落ちる一方になり、歩行が困難になったり転倒や骨折をしやすくなったりします」(加藤医師=以下同)
サルコペニア予防には運動と食事が重要になります。とくに食事はタンパク質を十分とる必要があるそうです。
「日本人はタンパク質が不足気味。筋肉のもとはタンパク質です。野菜をたくさん食べてウオーキングをしているから健康だと思い込んでいる人もいますが、タンパク質を十分とらないとダメです。高齢者でも筋トレし、プロテインを摂取してもいいのです」
加藤医師が勧めるタンパク質をより手軽に、より多くとる方法は、タンパク質の「ちょい足し」。いつもの食事にタンパク質を含む食品を一品加える方法です。
例えば、朝食がパン食ならハムやチーズをのせる、食後にヨーグルトを1個食べる、昼夜食のおかずに枝豆や納豆を足す、みそ汁を豚汁にするなど。
また、自宅でできる簡単な運動「ロコモトレーニング」もあるので紹介します。
①片脚立ち→左右それぞれ1分ずつ3回行う。転倒しないよう机などに片手でつかまって行う。
②スクワット→ゆっくりと5〜6回を1セットとして、1日3セット。
③かかと上げ→立ってかかとを上げ、ゆっくりと下ろす。10〜20回を1セットとして、1日2〜3セット。転倒しないように壁や机に手をついても可。
④フロントランジ→立って片脚をゆっくり前に踏み出す。太ももが水平になるくらいに腰を落とす。体を上げ、足を元に戻す。5〜10回を1セットとして、1日2〜3セット。
「運動は血の巡りをよくして代謝を上げます。ロコモ予防だけでなく、うつの予防や全身の健康につながります。運動で意欲的になり、前向きに生きることが健康寿命を伸ばす秘訣です」
人生100年時代、ロコモ予防で自立した生活を続けたいものです。=おわり(『日刊ゲンダイDIGITAL』10月19日公開)
長野県生まれ。信州大学人文学部卒業後、明治大学大学院修士課程修了。医療・健康・女性問題について新聞や雑誌などに執筆する他テレビ・ラジオなどで医療問題を中心にコメントや解説も行う。2007年よりイー・ウーマン「働く人の円卓会議」議長を務める。著書に「医療過誤で死ぬな」(小学館)、「あなたの歯医者さんは大丈夫か」(双葉社)など多数。