【連載】腹ふくるるわざ(60)
ニュータウン開発と富士山
桑原玉樹(まちづくり家)
多摩ニュータウン~富士見通り
私はニュータウン開発に関わってきた。ニュータウンの計画では富士山などシンボル的な山を視線の先に置くように設計することがある。
多摩ニュータウンにある「富士見通り」は、富士山の方向に向かって一直線に整備されている。富士見通りの周辺には、通りを軸として当時は比較的高額なタウンハウス群が配置された。ちなみに1983年に放映され大ヒットしたドラマ『金曜日の妻たちへ』は、この鶴牧・落合地区がロケ地として多用された。この街並みは、日本全国のなかでも突出してユニークな都市景観となり、「街全体が公園のようだ」と評価され、「緑の都市賞」「日本都市計画学会計画設計賞」「日本造園学会特別賞」を受賞している。
▲多摩ニュータウン 富士見通り
戸祭地区~男体山道路
宇都宮にある戸祭地区では富士山ではなく、日光男体山の方角を向いて歩行者重視の道路「男体山道路」が計画された。開発地区全体の軸となる道路だ。
次の図で分かるように道路を歩くと遠く男体山が望めるはずだった。だが残念ながら、緑地の高木が成長して、今は男体山を見通すことは出来ないようだ。
▲宇都宮市戸祭地区 男体山道路
平安京の造営~昔のニュータウン
昔も山を軸に都市が計画されることはあった。平安京の土地は、北(玄武)に船岡山、東(青龍)に鴨川、南(朱雀)に巨椋池、西(白虎)に山陽・山陰道があることから四神相応する、都としての適地とされ、そして北は船岡山、南は甘南備山(かんなびやま。神南備山とも)を結ぶ線を軸にして都が造営されたといわれている。
船岡山は低い山だが、清少納言が枕草子で「丘は船岡」と讃えたように京都のランドマークになる山だ。一方の甘南備山は、古代から神宿る山とされるが京都から見るとどの山だかわかりにくい。視角的ではなく精神的ランドマークだったのだろう。
ともあれ、二つの山を結ぶ線は、平安宮、朱雀門、羅生門を結ぶ南北の軸線である朱雀大路にぴったり重なっている。つまり朱雀門を出て、朱雀大路を南に歩いていくと羅生門の上に遠く甘南備山が見えるわけだ。
▲平安京の造営 ー船岡山と甘南備山を結ぶ線を軸に造営されたといわれる
千葉ニュータウン~100m道路
千葉ニュータウンの計画では100m道路(国道464号線、北総線など)が軸として計画された。しかしランドマークとしての富士山はさほど考慮されなかったようだ。
我が家を出て100m道路を西向きに行くと、空気が澄んでいるときは正面に秩父の山々が見える。しかし残念ながら富士山は角度が違うので見えない。
そんな中、意図的だったかどうか知らないが、千葉ニュータウン中央駅付近の100m道路は富士山の方角を向いている。高い樹林や道路の縦断勾配のためか、まだ富士山を見たことがないが、橋の上など条件がいい場所だったら見えるのではないだろうか?
そう思って検索したら、マニアはいるものだ。スカイツリーを手前にしたダイヤモンド富士を撮影した人がいる。しかも同じ画面に京成スカイライナーまで取り込んだ写真だ。おそらく100m道路の沿道にあるスーパー「ベイシア」の屋上駐車場から撮影した一枚だろう。
また千葉ニュータウン中央駅西にある道路橋からも撮影可能ではないだろうか。どなたか超望遠レンズをお持ちの方にトライしていただきたいと思っている。
▲千葉ニュータウン中央駅付近からダイヤモンド富士を撮れるか?
夢~富士山の見える千葉ニュータウン計画
もし私が50数年前に千葉ニュータウンの基本計画を担当していたら、100m道路の軸を富士山に向けたかもしれない。ついでに当ブログの前々回記事で書いた「富士山-鹿島神宮レイライン」に合わせて、試しに図面を作ってみた。
現在の線形をちょっと変えると千葉ニュータウン中央駅から白井駅まで約6㎞、一直線のレイライン道路が出来そうだ。
北総線の先頭車から、あるいは国道464号線か千葉北道路を西行きに車の運転をすると、はるか向こうに富士山が見える・・・そして北総線の利用者やスカイライナーの乗客は幸運に恵まれるかもしれない…。
▲夢~富士山の見える千葉ニュータウン計画
白井~パワーベルトの真ん中⁈
さて、上記の「富士山-鹿島神宮レイライン」は富士山頂の真ん中と鹿島神宮の本殿を結んだ線だ。白井駅はこの線上にある。しかし、富士山は大きいし、鹿島神宮だって広い。そこで富士山の5合目(標高2305m。直径約6.5km)と鹿島神宮の境内(約70Ha)を結んでみると、白井付近では幅約3kmの帯ができる。これを勝手に「富士山鹿島神宮パワーベルト」と名付けよう。
白井市には、梨畑、水田などが拡がる田園地帯とニュータウンとして開発された地区が適度に混在する。市街地の中の緑も豊かで、インフラも整っているので、「住みやすいし、住み続けたい」と愛着をもつ住民がとても多い。が、在来地区では高齢化が進んでいるし、ニュータウンだって初期入居から45年を経過して高齢化が進み、今やオールドタウンと呼んでいい。こんな状況では今後のまちづくりに懸念がある。
だが、嬉しいことに白井市の地区の多くは、この「富士山鹿島神宮パワーベルト」の中にある。このベルトから元気と健康をもらって、白井市がこれからも「ずっともっと・・・好きなまち」(「南山小学校区まちづくり協議会」のキャッチフレーズ)であり続けてほしいものだ。
▲富士山-鹿島神宮パワーベルト
【桑原玉樹(くわはら たまき)さんのプロフィール】
昭和21(1946)年、熊本県生まれ。父親の転勤に伴って小学校7校、中学校3校を転々。東京大学工学部都市工学科卒業。日本住宅公団(現(独)UR都市機構)入社、都市開発やニュータウン開発に携わり、途中2年間JICA専門家としてマレーシア総理府のクランバレー計画事務局に派遣される。関西学研都市事業本部長を最後に公団を退職後、㈱千葉ニュータウンセンターに。常務取締役・専務取締役・熱事業本部長などを歴任し、平成24(2012)年に退職。現在、南山小学校区まちづくり協議会会長、印西市まちづくりファンド運営委員、社会福祉法人皐仁会評議員、「しろいダーツの会」会長。