【連載】頑張れ!ニッポン⑧
なぜ米国のIT企業が躍進したのか
釜原紘一(日本電子デバイス産業協会監事)
▲GAFA(ガーファ:グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)
半導体売上で上位を独占するGAFAM
前回、「日本のパソコンやスマホが殆ど成長しなかったから、日本の半導体が伸びなかったのだ」と半導体屋の立場で勝手なことを言わせてもらった。
半導体売上ランキングでは米国メーカーが上位を占めているので、米国のIT産業の状況を見てみたい。
先ずはGAFA(ガーファ:グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)、あるいはGAFAM(ガーファム:Mはマイクロソフト)と呼ばれる企業の存在が目を引く。
これらの会社はアップルのみが製造業で、あとは情報関連のサービス業である。だから直接半導体を消費している訳ではないが、米国はもとより世界の経済を牽引している存在だ。
GAFAあるいはGAFAMは当初、小さなスタートアップとして誕生した。グーグル(Google)は1998年にスタンフォード大学の学生により設立されたスタートアップ企業である。それが今や2023年度の売り上げが3056億ドル(1ドル=150円で換算すると、45兆8400億円となる)にまで成長しているのだ。
製造業とサービス業の違いはあるが、これはトヨタの売り上げとほぼ同じである。ネット販売のアマゾンは同年の売り上げがさらに大きく、5748億ドル(86兆2200億円)だ。
ジョブス、ゲイツは今や伝説になった
アマゾンは1995に設立された当初は書籍のネット販売から始めたが、今やアマゾンで買えないものは無いと思われるぐらい拡大している。
フェイスブック(今はメタという社名に変えている)は、2004年にハーバード大学の学生が同級生と一緒に創業した会社で、当初の会員はハーバード大学の学生限定だった。ところが、段々と他の大学生や高校生へと開放され、今は13歳以上の全ての人に開放され、2023年の売上は1349億ドル(20兆2350億円)となっている。
スマホの大手アップルは創業が1976年とやや古いが、大学中退のスティーブ・ジョブス等により設立された。会社が軌道に乗るまでの波乱万丈の物語は本になっている。2023年度の売り上げは3833億ドル(57兆4950億円)で、何とトヨタを凌駕しているのだ。
マイクロソフト社も1975年に、ビル・ゲイツ等によって創業された。アップル同様やや古い会社で、設立当初から軌道に乗るまでのサクセスストーリーもやはり出版されている。2023年度売上は2451億ドル(36兆7650億円)だ。
因みに日立の2023年度売上は9兆7287億円、ソニーは11兆2650億円、パナソニック8兆4964億円となっている。日本が誇る総合電機の売り上げがGAFAMの前では影が薄い。30年間の日本経済の低迷を象徴しているのだろうか。
米国IT企業の創業者は若者ばかり
上述のGAFAMと呼ばれる企業は、設立30年足らずの比較的若い企業ばかりである事に注目したい。GAFAMの売り上げを合計すると246.5兆円になる。これは日本の国家予算の一般会計の2倍の額に上る(令和6年年度は約110兆円)。
GAFAMの紹介で敢えて創業時の事に触れたのは、創業者が学生などの若者が多いという事を知って貰いたからだ。そして、小さい事から始めて、事業を続けている内に分野を拡大しある時点から急拡大しているのだ。まさに小さく産んで大きく育てるという事を地で行ったのである。
以前にも書いたことだが、米国の大学生は卒業したら先ずは起業することを考えるという。大学の先生も学生が起業することを支援し、一緒にスタートアップを立ち上げる事も多い。
日本の大学でも最近になって先生の意識も変わって、大学発ベンチャーなども生まれているようだ。ただ、半導体製造に関しては起業するのは極めてハードルが高い。米国ではクアルコムやエヌビディアなどが半導体のスタートアップ企業として誕生したが、これらは製造手段を持たず設計開発に特化したファブレス企業だ。
▲クアルコムのチップ
半導体の設計は、IC誕生の頃は人間が回路図を書いていたが、ひとつのチップに何十万、何百万ものトランジスタが搭載されるようになると、コンピュータを使うようになる。
いわゆるCAD(Computer Aided Design、「キャド」と呼ぶ)は多くの分野で使われている。CADは、コンピュータ上の設計ツールのこと。半導体分野でCADを提供できる企業は、市場を独占している米国の3社で、このことが米国の優位の一要因となっている。
日本企業に必要なダイナミックさ
話が横道に逸れた。
エヌビディアはこれまでも何回か取り上げたが、1993年に台湾系アメリカ人ジェンスン・ファンが友人と共に設立した。初めはコンピュータゲーム向けのチップを供給していたが、やがてAI(人工知能)やスーパーコンピュータ、データセンターにも進出し、今や技術革新をリードする世界的な企業になっている。
2024年1月期の売上高は609億ドル(9兆1380億円)となっており、上述の日立の売り上げに相当する。
クアルコムは1985年創業で、CDMA方式の携帯電話の実用化に成功したことにより成長を遂げたと言われている。その後、携帯電話端末や通信設備部門を売却し、携帯電話用半導体チップを提供するファブレス半導体メーカとして成長した。
2023年9月度の売り上げは358億ドル(5兆3700億円)となっている。この企業も創業40年足らずの、比較的若い会社だ。私が現役の時すでに創業されていたようだが、その存在は知らなかった。
2000年代になって日本の半導体メーカーが、売上ランキング上位10社から姿を消すのと入れ替わるように現れた企業である。同社は携帯電話の普及拡大の波に乗って成長したが、今はAI向けや自動運転向けにも進出しており、将来に向けてさらなる成長が見込まれているらしい。
以上米国のIT産業及び近年頭角を現した半導体企業を概観したが、成長の過程で力を入れる部門を買収したり、その分野で必要な技術者を取り込んだりしており、そのダイナミックな動きに圧倒される。
エンジニアも自分の技術を生かせる企業に躊躇なく移っている感じだ。歴史も文化も違う日本Iには真似できないだろうが、何でも自分達だけでやろうとして伸び悩んでいるのではないだろうか。もっと柔軟になってエンジニアの流動性も高めて、活気溢れる社会になって欲しいものだ。
【釜原紘一(かまはら こういち)さんのプロフィール】
昭和15(1940)年12月、高知県室戸市に生まれる。父親の仕事の関係で幼少期に福岡(博多)、東京(世田谷上馬)、埼玉(浦和)、新京(旧満洲国の首都、現在の中国吉林省・長春)などを転々とし、昭和19(1944)年に帰国、室戸市で終戦を迎える。小学2年の時に上京し、少年期から大学卒業までを東京で過ごす。昭和39(1964)年3月、早稲田大学理工学部応用物理学科を卒業。同年4月、三菱電機(株)に入社後、兵庫県伊丹市の半導体工場に配属され、電力用半導体の開発・設計・製造に携わる。昭和57(1982)年3月、福岡市に電力半導体工場が移転したことで福岡へ。昭和60(1985)年10月、電力半導体製造課長を最後に本社に移り、半導体マーケティング部長として半導体全般のグローバルな調査・分析に従事。同時に業界活動にも携わり、EIAJ(社団法人日本電子機械工業会)の調査統計委員長、中国半導体調査団団長、WSTS(世界半導体市場統計)日本協議会会長などを務めた。平成13(2001)年3月に定年退職後、社団法人日本半導体ベンチャー協会常務理事・事務局長に就任。平成25(2013)年10月、同協会が発展的解消となり、(一社)日本電子デバイス産業協会が発足すると同時に監事を拝命し今日に至る。白井市では白井稲門会副会長、白井シニアライオンズクラブ会長などを務めた。本ブログには、平成6年5月23日~8月31日まで「【連載】半導体一筋60年」(平成6年5月23日~8月31日)を15回にわたって執筆し好評を博す。趣味は、音楽鑑賞(クラシックから演歌まで)、旅行(国内、海外)。好きな食べ物は、麺類(蕎麦、ラーメン、うどん、そうめん、パスタなど長いもの全般)とカツオのたたき(但しスーパーで売っているものは食べない)