新型コロナ感染の予防策
トゥー博士が注目した論文とは?
政府が緊急事態宣言を発した4月8日、白井健康元気村にアンソニー・トゥー(杜祖健)博士から新型コロナウイルス感染の予防策についてのメールが送られてきました。
「今まで読んだ内で一番いい予防の文」とトゥー博士が推薦するのが、『総合危機管理学会(SIMRIC)通信 No.10(特別版) 』(3月31日)に掲載された一文。執筆したのは千葉科学大学の黒木尚長教授です。
総合危機管理学会は平成28(2016)年3月に設立された新しい学会で、事務局は千葉科学大学(千葉県銚子市)危機管理学部内に置かれました。
以下が黒木教授が提唱する新型コロナウイルス感染の予防策です。ご参考までにお読みください。
COVID-19にならないために
黒木尚長(千葉科学大学危機管理学部)
抄 録
ウイルス感染症に罹患しないためには、人と接触するときは必ずマスクをつけ、マスクを外すときに手を洗うことを徹底すればよい。COVID-19にはアルコール消毒も効果がある。陽性者のすべてで、ウイルスが口・鼻・眼から侵入し感染したと思われる。都市閉鎖や外出禁止だけでは、COVID-19を収束できない。
1. はじめに
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が現状(3月30日)では、ほぼ、感染蔓延期に移行したと思われる。3月24日より感染者(PCR検査陽性者:以下、陽性者)の増加が特に都市部で加速しているからである。その原因に、感染経路を追えないケースの急増がある。感染拡大防止のカギとなる「クラスター(感染者集団)潰し」には限界があり、個人レベルで絶対に感染しないように自衛策をとる必要がある。単純に外出しなければ、それはそれでいいのであるが、他にも方法はある。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は飛沫感染と接触感染によりうつるといわれている。つまり、『手洗いと咳エチケット等を徹底』すれば、陽性者になることはない。逆に、陽性者は、『手洗いと咳エチケット等を徹底』していなかった人の証しなのである。
2. ウイルスは見えない敵
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染制御のターニングポイントは、1月31日であった。『症状ない帰国者2人感染 新型肺炎、厚労省「想定外」』の記事の中で、厚生労働省は30日、チャーター機の第1便で帰国した日本人のうち3人が感染していたと発表した。このうち2人は、発熱やせきなどの症状がない国内初の感染例だった、とある。このような状況下では、インフルエンザと同じく、感染源不明の患者が多数出現し、指数関数的に増加する可能性があることを意味し、無症状病原体保有者が特定できない以上、有効な対策がとりづらいことを意味する。
3. 感染対策の基本
感染予防策には大きく分けて、標準予防策(スタンダードプリコーション)と感染経路別予防策がある。標準予防策は感染症の病態にかかわらず、すべての傷病者に対して行われる感染予防策である。標準予防策は,患者の血液,体液(唾液、胸水、腹水、心嚢液、脳脊髄液等すべての体液)、分泌物(汗は除く)、排泄物、あるいは傷のある皮膚や、粘膜を感染の可能性のある物質とみなし対応することで、患者と医療従事者双方における病院感染の危険性を減少させる予防策である。手指衛生(手洗い、または手指消毒)がすべての医療行為の基本となり、感染防止に対して一番大きな役割を果たす。その上でマスク、ガウン、ゴーグル、手袋などの個人防護具を使用する。
4. 感染がおこるパターンとその解釈
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は飛沫感染と接触感染によりうつるといわれている。
1) 飛沫感染
咳やくしゃみ、会話、気管吸引、吸などにより、直径1~100μm程度の大きさの飛沫粒子(エアロゾル、微小な空気中で浮遊できる粒子)が放出される。
直径5μm以上の大きな飛沫粒子により感染を起こすものを飛沫感染といい、約1mの距離内で濃厚に感染を受ける可能性があり、2m離れると落下したり、乾燥し感染性を失うため感染しないとされる。サージカルマスクをしていれば、予防できる。
2) エアロゾル感染
粒子が大きいほど、中に含まれるウイルスが多いため感染性が高く、乾燥しにくいことは言うまでもないが、湿気のある密室では、5~10μmのエアロゾルや呼気の大半を占める1μm程度の小さなエアロゾルは、空気中に浮遊し、数分から30分程度,感染性を保持する。これがエアロゾル感染という。小さなエアロゾルほど、浮遊しやすい結果、吸気により深く気道に達しやすいため、感染力は高いとされる。なお、1μm程度の小さなエアロゾルは、直径5μmまでの粒子を除去できるとされるサージカルマスクをも通過する。エアロゾル感染を起こさないためには、乾燥と換気が必要である。
3) 接触感染
病原体との直接接触あるいは環境表面や医療器具などとの間接接触によっておこる感染をいう。ウイルス感染の場合、感染者がくしゃみや咳を手で押さえ、自らの手で周りの物に触れると感染者のウイルスが付き、未感染者がその部分に接触すると、ウイルスがうつります。そのウイルスが口・鼻・眼から侵入してはじめて感染が成立し、それを接触感染という。接触感染が成立するためには、飛沫感染やエアロゾル感染と比べ、より多くのウイルスを必要とするとされるが、プラスチックやステンレスに付着したウイルスの生存期間は3日以上、段ボール紙で1日以上と言われており、接触する機会が多いほど、感染の可能性が高くなる。
感染場所の例として、不特定多数が接触する、電車やバスのつり革、ドアノブ、エスカレーターの手すり、(エレベーターなどの)スイッチなどがあげられる。テーブルやタクシーの運転席・助手席間のコンソールボックスのほか、陽性者の所持品にも注意が必要で、スマートフォン、タブレット、パソコンキーボード、さいふ、小銭、紙幣、クレジットカード、ペンなどの筆記用具、箸、スプーン、コップ、歯ブラシ、カバンなど、ありとあらゆるものに最大で3日以上付着しているとことになる。特に、食事中でも触っているスマートフォンは、1番の温床になると考えられ、接触感染を防ぐには、手洗いだけでなく、スマートフォン画面の清掃も重要と考える。
4) 陽性者の感染経路についての解釈
海外渡航者以外の陽性者は、当初、武漢市からのツアー客を乗せたバス運転手、そのバス運転手と共に食事をしたことのあるバスガイド2名、そして、タクシー運転手数名であった。しかし、2月18日以降では、タクシー運転手の感染はほとんどみられていない。十分な手洗い、アルコール消毒、換気などの感染対策が行われた影響なのかもしれない。2月25日以降、知られるようになったクラスター感染は、屋形船、ライブハウス、ライブバー、展示会、スポーツジム、卓球スクール、医療機関、福祉施設などでみられている。
飛沫感染であれば、陽性者に心当たりがあると思われ、そのような状況を作った本人に非があると感じているであろう。
今回の陽性者の感染経路のほとんどは、エアロゾル感染ではないかと考えている。
換気のない湿気のある室内に多くの人が集まると、集まるだけで湿度がより高まる。高温多湿の日本には、そもそも乾燥した室内など存在しないのだから、除湿機のない換気のない室内であれば、エアロゾル感染は簡単に起こると考えるべきである。
タクシー、バス然り、屋形船、ライブハウス、ライブバー、展示会、スポーツジム、卓球スクールなどのクラスター感染、加えて、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染もエアロゾル感染が主と考えた方が良い。残りは接触感染で説明できるはずである。
食事中の感染例が多くみられ、自宅室内や飲食店の個室などで発生している。これもエアロゾル感染の可能性が高く、家庭内感染の多くもエアロゾル感染と思われるが、スマートフォンによる接触感染も少なからずあるのではと考えている。
医療機関や福祉施設でクラスター感染が多発しているのを不思議に感じるかもしれないが、予期せぬ、無症状病原体保有者が福祉施設や医療機関に紛れた場合、職員間でも必ずマスクをつけた上で接触感染にならない対応をしなければならない。そこにほころびができるだけで、潜伏期が1~14日と長いことから、知らず知らずのうちに爆発的に患者は増えてしまう。その意味では、外出禁止令を強制しても、例外を認めてしまうと、結果としてCOVID-19は、院内感染が多発してしまい、収束できないものと思われる。これらの多くは、ドアノブや電子カルテ、記録簿などを介する接触感染と思われるが、前述した感染様式で感染したことは確実である。マスクをしていないと、会話だけでも、ウイルスが飛沫感染でまき散らされる。いずれにせよ、口・鼻・眼のいずれかにウイルスが侵入したために感染したのである。
5. ウイルス感染が起こるイメージ
接触感染では、ウイルスが3日も生存することがあるため、陽性者では、手と所持品の間を行き来する可能性が高く、これが潜伏期に影響するのかもしれない。特にスマートフォンが危ないと感じている。持ち込んだウイルスは、手に付着し、スマートフォンの画面上で生き続ける。したがって、手洗いだけでなく、スマホ画面をアルコールでふいておくべきである。食事中にスマートフォンを使用するのは大変危ない。
接触感染を気に留める人が少ない感があり、十分な手洗いをしている人が多いとは言えない。そのような危険な状況にもかかわらず、COVID-19患者は、インフルエンザと比べると患者数ははるかに少ない感がある。それは、コロナウイルスの増殖力によると思われる。感染して増殖を終えるまでの感染性ウイルスの産生量はインフルエンザウイルスの約1/100程度と推測されるといい、それをそのままあてはめれば、インフルエンザと比べると100倍程度感染しにくいと考えられる。濃厚接触者の陽性率がクラスター感染と比べ少ないことを踏まえると、感染力の試算は正しいように思われる。
つまり、COVID-19は、飛沫感染もしくはエアロゾル感染で高率に発症し、接触感染では、発症率は低いが、接触感染が繰り返しみられるため、ある程度の発症はあると考える。
6. 自分が無症状病原体保有者であった場合、とるべき行動とは!?
現状では、いつ、自分が無症状病原体保有者からウイルスをもらってもおかしくない。そうなった場合に備えて、外出時には、顔にウイルスが絶対に付着しない自衛手段を確立しなければならない。
日常生活上、ウイルスが付着する可能性のあるものに触れざるをえず、ウイルスと接触する可能性は高い。手袋でも予防可能だが、ディスポーザブルのものを使用しない限り、手袋に付着したウイルスに触れる可能性が高い。つまり、頻回の手洗いは感染を予防できる。また、コロナウイルスはアルコール消毒でも効果がある。
マスクを外すときに必ず手洗いをすれば、顔を触ったり、飲食をするときにウイルスが目・鼻・口に侵入することはない。いつも手に付着しているウイルスを最小限にとどめられるので、うつす可能性を最小限にとどめられる。それでも物に手を触った直後に必ず手洗いをするわけではないので、手洗いやマスクをしていても感染することはゼロにはできない。スマホの画面はウイルス増殖の温床になるので、アルコールで拭いた方が良い。マスクをつけてから手洗いをすれば、自身にウイルスが付着しているのは、あったとしてもマスクだけに限られ、その後、いろいろなものを触った際に、ウイルスが手に付着する可能性がある。
7. 都市閉鎖や外出禁止でCOVID-19は収束するのか?
潜伏期をこえる2週間以上、外出禁止を続ければ、理論上収束できる。ただし、事実上外出禁止を守れない、医療従事者や職員の中に無症状病原体保有者が紛れていれば、福祉施設や医療機関などで、集団感染が起こりうるため、仮にそれ以外の人々すべてが。外出禁止を続けていても、患者発生をゼロにすることはできず、完全には収束できない。
その意味でも、外出禁止にするかわりに、『マスクを外すときに手洗いをし、マスクを装着してから手洗いをする』を義務づければ、陽性者であれ、未感染者であれ、ウイルスをうつすことがないので、COVID-19を収束させる可能性がある。
8. まとめ
今後、少しでもCOVID-19を収束できるように持って行くには、人からうつされないため、人にうつさないために、『人と接触するときは、必ずマスクをつけ、顔を触ったり、飲食するときには、マスクを外して手を洗う』ことを習慣づける必要がある。アルコール消毒も効果がある。スマホの画面もアルコールできれいにしたほうがよい。食事をする場所は、エアロゾル感染が起こらないように、換気と乾燥に留意する。ある意味、陽性者は、上記約束が守れなかった証しであり、非感染者は、上記約束を守り、体内にウイルスを持ち込まなかった人である。
なお、マスクは必須ではないが、咳エチケットだけは守るべきである。咳エチケットとは、感染症を他者に感染させないために、咳・くしゃみをする際、マスクやティッシュ・ハンカチ、袖、肘の内側などを使って、口や鼻をおさえることである。これにより、飛沫感染やエアロゾル感染を抑えることができる。マスクをしない場合、『人と接触するときは、2m以上の間隔をおく。できれば、手洗いをする。顔を触ったり、飲食するときには、必ず手を洗う』。この約束を守ることにより、マスクをしなくても、ウイルスを人にうつさないし、人からもうつされないはずである。
これらわたしの意見をご理解いただければ、ぜひ、実践していただきたい。本論文が、COVID-19の感染の収束の一助になれば、望外の喜びである。
参考文献
1) 白木公康、木場隼人:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス学的特徴と感染様式の考察。日本医事新報、5004:30-37,2020-03-21
2) 朝日新聞 新型コロナウイルス感染症 関連記事
3) 厚生労働省:「新型コロナウイルス感染症について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
4) 新型コロナ、空中で数時間生存 米研究所が警告。ロイター ワールド、2020-03-18, https://jp.reuters.com/article/health-coronavirus-study-idJPKBN214400