阿部ブログ

日々思うこと

EUにおけるスマートグリッドの動向

2010年11月13日 | 日記
1.EUにおけるスマートグリッドを巡る背景

従来、電力は電力会社の発電施設から需要家に向けての一方通行であるが、今後は、太陽光発電・風力発電のように需用家による自家発電、及び国策として再生可能エネルギーの大規模導入が加速している事から、電力網に双方向性を持たせ、需要と供給のバランスを取ることによってエネルギーの有効利用と最適化を図ると言うのがスマートグリッドである。

米国のスマートグリッド構想の背景にあるのは、送電網の老朽化にある事は、広く知られるようになっているが、欧州においてもスマートグリッド(賢い電力網)と言う考え方を積極的に導入し実現しようとしている。ただし、EUではエネルギーの安全保障・安定確保が重要な要素を占めており、それが顕在化したのは、ロシアがウクライナ向けガス供給を停止した事が発端である。この他、北海油田の枯渇による域内でのエネルギー自給率の低下、老朽化する石炭火力発電所と相次ぐ原子力発電所の閉鎖、そしてロシアへのエネルギー依存率が高い東欧諸国のEU加盟などにより、再生エネルギーの大規模導入と併せ、EU域内の全系統を連携させ、全体最適化を行なえるEU版スマートグリッドである「SmartGrids」が構想されている。

この「SmartGrids」は、2006年、欧州委員会(EC)が「European Technology Platform SmartGrids」として発表 し、翌2007年に「European Technology Platform SmartGrids -STRATEGIC RESEARCH AGENDA FOR EUROPE’S ELECTRICITY NETWORKS OF THE FUTURE-」を提示し、具体的な研究開発の方向性を示した。これにより「SmartGrids」は、低炭素社会の基盤となる戦略的エネルギー技術として具体化される事となる。

2.EU版スマートグリッドが目指す方向性
EUにおけるスマートグリッドは、自由化された世界最大の統一的電力・ガス市場を形成しつつある現在のエネルギー・ネットワークに、いかに再生可能エネルギーの大規模導入を行い、かつエネルギー効率の向上と安定供給を図るのかが最大の課題となっている。その意味で「SmartGrids」は、EUのエネルギー網の核となる「欧州横断エネルギー・ネットワーク」を実現する中核技術として開発される事になる。

「欧州横断エネルギー・ネットワーク」の開発目的は、エネルギー資源の合理的生産・輸送・配給・配電・利用と、再生可能エネルギー資源の促進によるエネルギー・コストの削減とエネルギー源の多様化、更にEU域内エネルギー市場の効率的運用の実現を目指している。これによりエネルギー安定供給を実現し、持続的な成長と環境保護に貢献すると定義されている。この定義は、EUにおけるスマートグリッドが目指すべき理想像を的確に表現していると言える。

また再生可能エネルギーについては、ヨーロッパだけではなくアフリカなど遠隔地で太陽熱などにより発電したグリーン電力をEU域内に送電する「地中海プロジェクト」がドイツ企業を中心に進められている。現在の送電網は交流が中心であるが、送電線の鉄塔などの新規設置が難しく維持コストもかかる事から、長距離送電や送電設備の簡略化の面で、徐々に直流が見直されつつある。この地中海プロジェクトでは、大陸間を跨ぐ「スーパーグリッド」を構築するが、これはグリーン電力を直流で、しかも電気抵抗をゼロにして送電する超伝導送電技術を導入して、EU域内の需要地に送り届けることを目指している。

3.EUの「戦略的エネルギー技術計画」(Strategic Energy Technologies Plan:SET Plan)
2007年11月、ECは「SmartGrids」構想も包含する「戦略的エネルギー技術計画」(SET Plan) を発表した。このSET Plan策定の背景には、EUの政策目標が存在する。即ち2020年までに温室効果ガスの排出を20%削減し、2050年までに現状のエネルギーの脱炭素化と言う目標達成の為に立案され、戦略的エネルギー技術として、「風力発電」、「太陽エネルギー」、「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」、「バイオエネルギー」、「スマートグリッド」、「原子力エネルギー」など6つを挙げている。

このSET Plan実現のためにEUは、2010~2020年の10年間で最大715億ユーロの投資が必要と試算しており、これと平行して低炭素エネルギー技術開発への投資も、これまでの年間30億ユーロ程度から80億ユーロに引き上げ、10年間で500億ユーロ以上が新たに投資するとしている。

4.EUのスマートシティ(Smart Cities)
EUは低炭素社会への転換を速めるため、2020年までに温室効果ガス排出40%削減を達成する目標を掲げた野心的なスマートシティに取り組もうとしている。EUのスマートシティは、都市におけるエネルギー効率向上技術や排出削減技術に集中投資することで、ビルディング・地域エネルギー網、交通の3分野のエネルギー効率を飛躍的に向上させ、低炭素社会に転換しても地域経済を実際に活性化しうることを実証するとしている。

2009年6月、先陣を切ってオランダのアムステルダム市が「アムステルダム・スマート・シティプログラム」を推進し、EU初の「インテリジェント・シティ」を創ると発表している。

EUのスマートシティへの取組みは、将来的にも持続可能な低炭素社会への転換を指向する取組みである。その重要な一端を担っているのがスマートグリッドであり、EU域内でもエネルギー・インフラの老巧劣化が進行し再投資が早急に必要なこともあり、これを期にエネルギー・インフラのリニューアルとスマート化を一気呵成に成し遂げようとしている。エネルギー・インフラのスマート化とは、ICTを使ってリアルタイムに供給と需要を最適化することを指す。

米国とは異なる経済的体制と地理的特定を持つEUは再生可能エネルギーの大規模導入と、アフリカ、中東地域からのグリーン電力を送電するスーパーグリッドを早期に実現させ、限りある資源からの便益を最適化する脱炭素社会を205年までに成し遂げるべく最大限の努力を払っている。今後も米国の動向と共にEUの動きからも目が離せない。