阿部ブログ

日々思うこと

ピーカンストリート・プロジェクト(オースティン)

2010年11月23日 | 日記
テキサス州は、エネルギー消費量が全米最大で、人口1人当たりのエネルギー消費量も5番目に大きく、石油や天然ガスの生産地であるとともに、一大エネルギー消費地でもありCO2排出量はドイツに次ぐ世界7位である。但し、テキサス州は,再生可能エネルギーにおける全米屈指のポテンシャルを有する地域でもある。州の東側は緑が多くバイオマスに適し,州西側は砂漠地帯であり、太陽光発電に向くためである。特にテキサス州は、風力発電の導入量(能力換算)で全米第1位で、インドに次ぐ世界6位の風力発電設備を有する。その反面、風力以外の再生可能エネルギーの利用は進んでいない。

テキサス州のエネルギー計画は、2008年7月に知事直轄の競争審議会(Competitiveness Council)が発表した「2008 Texas State Energy Plan」がある。この計画は、バランスの取れた競争力のある価格での信頼性の高いエネルギー供給のあり方や、資源エネルギー(石油・天然ガス)生産地としての将来的なあり姿に重きを置くとともに、より適切なエネルギー消費と、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーなどの開発及び促進など広範囲に及ぶ内容である。

スマートグリッドについては、2008年12月、Pecan Street Project(以降、ピーカン・プロジェクト)がスタート。主にオースティン市においてスマートグリッドの実現に向けた様々な実証試験を展開している。このプロジェクトへの参加企業は、GridPoint、デル、GE Energy、IBM、インテル、オラクル、シスコ、マイクロソフトなど。2009年4月には、Texas- New Mexico Power (TNMP) が、AT&Tと連携して1万のスマートメーターを配布するプロジェクトをスタートさせている。

テキサス州が米国国内で最もスマートグリッドの導入にふさわしいとされる理由がある。全米でも州内で完結する送電網を持つのは、テキサス州だけであり、しかも送電インフラも他の地域と比較して新しいという特徴がある。前述の通り全米で最も再生可能エネルギーのポテンシャルが高い州であることもあり、米国のエネルギー問題を解決するには、まずテキサス州からと言う理由によって、ピーカン・プロジェクトが発足した。

ピーカン・プロジェクトでは、太陽光発電、蓄電池、水や天然ガスを含むスマートグリッド、電気自動車の活用、グリーン・ビルディング、リアルタイム価格の設定などに取り組んでいる。技術だけでなく事業の観点からスマートグリッドを検討でき、確立した技術や事業モデルを他の都市に展開することができる。

特にミラーと呼ばれる地域では、ボランティアで1000軒の住宅、75棟の商業ビルが参加していることである。この地域は、人口密度が高く、住宅価格は米国平均より25%低く、中低所得者でも比較的住宅取得がしやすいという特徴がある。またこの地域には500室の老人ホームもある。こうした場所におけるホーム・エリア・ネットワークの情報、解析結果、水道・電気・ガスの関連情報を収集する。

課題は、電気自動車を電力網に組み込んだ時の電力料金とピーク制御。所有者の多くが帰宅する18時以降、充電のために電力使用が集中するため、従来の固定料金ではなく、プリペイド方式やリアルタイム料金変動などの方法が必要である。

アムステルダムのスマートシティ化への取組み

2010年11月23日 | 日記
EUは、2020年の温室効果ガス削減目標(20%)を遥かに上回る40%削減を目指す先進的なスマートシティをEU域内に25~30都市で構築するとする「スマートシティ・イニシアチブ(Smart Cities Initiative)」を展開している。これらスマートシティでは、建物、地域エネルギー供給ネットワーク、交通のそれぞれの分野でエネルギー効率を向上させる施策を実施し、EU域内全体でのエネルギー効率や再生可能エネルギー、エネルギーネットワーク技術の普及を目指すものである。

アムステルダムのスマートシティはその先頭を走るプロジェクト。アムステルダムは7世紀に建設が始まり、世界最初の外為市場が開設されるなど歴史のある都市で、マスダールなどのようなスマートシティを更地から新規に構築するのではなく、既存の歴史ある資産を活かしながら、可能な限りエネルギー効率に優れた都市に作り変えていくプロジェクトである。

市中心部の旧市街地は狭い路地や運河が多く、船舶や自動車の騒音・大気汚染(特に大型自動車や船舶のディーゼルエンジンに由来する公害)が問題視されている。スマートシティ・プロジェクトの背景にはQOLの向上と併せて新規雇用の創出を同時に実現するという行政の思いも背景にある。

アムステルダムのスマートシティ構想は、2006年に市当局とユーティリティ企業によって検討されたことに始まり、その後アクセンチュアなど多彩なパートナーと連携している。このプロジェクトは、(1)持続可能な生活(民生部門)、(2)持続可能な労働(業務部門)、(3)持続可能な運輸、(4)持続可能な公共スペース(公共部門)が対象。加えて、従来から実施されている新エネルギー(��風力や廃棄物エネルギーなど)導入、交通インフラ整備。例えば、自転車利用促進のための専用路の整備や、トラムバスなどの公共交通機関の利便性の向上などと併せて推進するものである。

スマートシティは,技術だけではなく,人々の生活に密着した取り組みだと考えている。留意しているのは、どのようにすればスマートシティに欠かせないツールを、生活者である市民に使ってもらえるのか、どのようにして市民としての役割を自覚させることができるのかが課題。また政府の支援による実証実験に終わらせてはならず,市場を創出できる実用的な仕組みでないと意味がない。

住宅に関する取り組みでは、2つのプロジェクト進行中である。現在、約500軒の一般住宅(ボランティア)にスマートメーターを設置。市民の省エネルギーに関する意識を啓発し、電力利用行動の変革し、省エネを促進する取組を行なっている。スマートビルディングに関しては、BEMSなどの技術を導入することによって、エネルギー消費データの収集・監視・解析と建物のプログラミング設定を行い、照明・冷暖房・セキュリティ機能を高めた建築物の実現を目指す。特にビルの省エネのために「スマートプラグ」を導入し、ビルのエネルギー効率を30%向上させる実績を上げている。これはドイツ銀行が所有する最新のビルで行なったが、テナントは大して興味を示さなかった。賃料に電気代が含まれており、省エネしても賃料など支出が変わらなかった為と思われる。住民やテナントにどのようなインセンティブを持たせるかが大きな課題。

アムステルダムの人気ショッピング・レストラン街ユトレヒト・ストラート地区では省エネルギー化を図る「気候ストリート」構想を推進している。店舗や飲食店経営者は、スマートメーターとエネルギー消費量のディスプレイ(可視化)により、効率的なエネルギー消費の管理を実施している。と同時に、持続可能なゴミ収集システム(収集車のEV化、太陽光発電によるゴミ圧縮機の普及など)の導入、路面電車の停留所・街路とファサード(建物壁面)の高効率照明の設置などに取り組んでいる。

・歴史的建造物や劣化する社会インフラの全面的更新が20年後以降に本格化すると予想しており、この長期視点にたって今後もアムステルダムのスマート化を推進していく。