『北緯66.6° 北欧ラップランド歩き旅』森山伸也(本の雑誌社)
フィンランド、ノルウェー、スウェーデンにまたがるラップランド単独行550キロの紀行文だ。トナカイと戯れながら、ひたすらツンドラ地帯を歩く。そこにはアルプスの少女ハイジの世界を彷彿とさせる風景があった。
ちょっとした山登りあり、湿原地帯や草原歩きあり、川の渡渉あり、ボートでの湖水渡りありで、バリエーションに富んだ道行きになる。天候さえよければ、カバー写真のように気分爽快なトレッキングになる。こんな山歩きは理想的だが、当然ながらいいことづくめではない。個体数は少ないが、ブラックベアーやブラウンベアーがいるし、著者が「スポンジ跳び箱」と呼ぶ凸凹の連続地帯があり、登ったり下りたりの繰り返しを強いられる。なぜそんな凸凹ができるかといえば、ツンドラの凍結していた水分が気温の上昇とともに解けるからだ。そんな足場の悪い場所を進めば、問答無用で体力は消耗する。加えて水のあるところには、日本の3倍くらいの大きな蚊が棲息している。ふだんはトナカイを狙っている蚊だが、人間がやってくれば襲いかかってくる。それに雲が沸いてくると、氷河をなめてくる偏西風によって夏でも雪になる。それだけ北緯66.6°の自然環境は厳しいのだ。
でも読んでいると、楽しさだけが伝わってくる。自然に身を投げ出して自由を満喫している感覚がストレートに伝わってくる。たとえば、日本とは異なり、テントはどこにでも、好きな場所に張れる。そして地衣類(コケ)の上に張ったテントの寝心地のよさ。ふかふかしていて、ちょうどいいクッションになるといううらやましい話が出てくる。しかもテントからは神々しい日の出を拝める。ブルーベリーやクラウドベリーの群落を見つければ、食べ放題というのも魅力的だ。またフライフィッシャーや同じトレイルをたどるトレッカーたちとの出会いがまた楽しさを倍増させる。
読んでいくほどに、行ってみたくなるラップランド。彼のように長期間歩こうとは思わないが、4,5日程度でお気楽に歩いてみたいものだ。
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北緯66.6° |
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