『アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由』山野井泰史(ヤマケイ新書)
先鋭的な登攀を繰り返し、常に死と隣り合わせに生きてきた男の歩みである。20代の若かりし頃のインタビューも併載されていて、当時の矢沢永吉ばりのトンガリぶりが面白い。年齢とともに人間、枯淡の境地を身につけるもので、山野井氏もトンガっていた頃の発言に冷や汗が出ていることだろう。
ところで、山野井氏をはじめとする垂直志向の人の好きな山というのは、私たち常人には想像がまったく及ばない山ばかりで、なんでと思ってしまうのだが、彼の場合は、「アルピニズム=挑戦」、山頂を攻略するという思いがあるようだ。山に登ろうという動機付けがそもそも私のような軟弱登山者とは違う。
山野井氏の好きな山をちょっと抜粋してみよう。
●どっしりとした重量感のある山
甲斐駒、モン・ブラン、ブロードピーク、チョ・オユー、マカルー、K2、ギャチュン・カン
●ペンのように鋭く尖った山
ドリュ、マッターホルン、フィッツ・ロイ、アマ・ダブラム、ガッシャーⅣ、レディースフィンガー、西上州一本岩
●巨大な手掛かりの少ないスラブ
穂高屏風岩、ハーフドーム、エル・キャピタン、トール、ポタラ
●エレガントな氷の筋
烏帽子大氷柱、錫状1ルンゼ、ベン・ネビス
奥さんとの生還劇を果たした、あのギャチュン・カンも入っていて驚かされる。凍傷で指を失っても、とことんやるのが山野井流。年を重ねても、まだまだ彼の挑戦は続くのだろう。
本書にはギャチュン・カン以外にも、雪崩からの生還劇や、ニュースで話題にもなった奥多摩で熊に襲われた事件についても触れている。何が起きても前向きな彼の姿勢には驚かされる。
アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由 YS001 (ヤマケイ新書) | |
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