はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

<font size="-3">「ロシアの映像詩人 ノルシュテイン 日本をゆく」</font>

2005-05-15 23:54:44 | アートなど
録画しておいた番組、5月14日22時からNHK教育テレビで放映された「ロシアの映像詩人 ノルシュテイン 日本をゆく」を観ました。
ざらえもんさまのブログ *R*graffiti** で教えたいただいたのがきっかけです。
内容は、日本のアニメーション界ともかかわりの深いアートアニメーションの巨匠、ロシアのユーリ・ノルシュテイン氏をめぐるドキュメント。
氏の工房での製作風景、代表作「外套」や「霧の中のハリネズミ」などの紹介、氏の各地への訪問の様子、日本で毎年開催されているアートアニメーションのコンクール「ノルシュテイン大賞」選考の様子、氏と各界アーティスト(川本喜八郎、イッセー尾形、山村浩二、高畑勲)との対談の様子、ノルシュテイン大賞に応募した若手アーティストとの対面の様子などが、コンクール応募作品や氏のアニメーション映像を織りまぜながら90分にわたって紹介されていました。


まず、氏の作品映像のクオリティの高さに瞠目しました。
手書きの絵だけで構成されたとは思えないほどリアルな奥行きと繊細な動き。
モノクロームの画面から醸し出される独特の世界観は作品への尋常ならざるこだわりを感じさせます。
ぜひとも作品全体を観てみたくなりました。
次に思ったのが、「ノルシュテイン氏が佐藤雅彦研究室のアニメーションを観たらどう反応するだろう?」ということです(笑)。
ドキュメント映像の端々から、どうやら氏は感性や体験的な表現を非常に重視しているらしいことがうかがえました。若手作家を前にしたレクチャーでも、しきりに閉鎖性や内向性を指摘し、もっと現実観測に基づいて感性や感情を表現しなさい、と力説されていたノルシュテイン氏。そのような方法論とは180度異なった「概念を映像化する」佐藤雅彦研のアニメーション作品はどう評価するのでしょう。
思うに、ノルシュテイン氏はテーマを描くのが目的で、そのために映像を利用している、といった経験的なスタンス。対する佐藤雅彦氏は映像表現そのものが目的で、表現法=映像=目的、といった実験的なスタンス。
アプローチは違いますが、どちらも人間に感銘を与えてるという事実は変わりません。
感性だけではなく、要素還元した法則を映像に取り込むことも同じく重要なのではないか、私などはそのように思うのです。
それゆえ、気になるアーティストノルシュテイン氏が佐藤雅彦作品にどう反応するのか、想像してすご~く気になったのでありました(笑)。
気になったといえば、番組中、前述した若手作家たちとの対面場面と、高畑氏との対談が非常に気になりました。
ノルシュテイン大賞選考前に氏は若手作家たちとの対面を行うのですが、いまいち目的が見えません。選考する側とされる側が対峙しているのですから、その力関係は明白です。対等ではありえなく、質問も許されない。つまりディスカッションは成立し得ない。一方的な意見の陳述に終始した、ご高説拝聴的な場に見えてしまって仕方がありませんでした。
事実がそのまま論理の基盤となる理系分野とは違って、自分の感性のよりどころとなるものを、相手にわかるように説明できてはじめて議論が成立するのが文系の難しいところではないかと思います。お互いに説明努力を怠れば、いかに素晴らしいことを語っても何の共通認識も得られないまま話が通じない、といった事態が頻繁に起こり得ます。若手作家との交流を目的とするのならば何らかの工夫が必要だったのではないかと、本筋とは別の部分で残念に思ってしまいました。
同様に、高畑氏との対談で最近の若者像について「こうなったのは現実の質が変わってきた影響だ」と話題にしていましたが、都市部に住む人間の口からそのような言葉が出たところで、今一つ説得力がないように思えました。おふたりの接する「最近の若者」のサンプル数がどれほどものものかはわかりません。しかしながら、都市部の限られた区域の「若者」に接し、その限られた知見の中で印象を語っているに過ぎないように私には感じられて仕方がありませんでした。都市に住みながら「世の中便利になりすぎた」と語られても、未だに不便な地域があることを常に思い知らされている身からすれば「何を勝手なことを!」と思えてしまうのが人情です(^^;。


いろいろと気になりつつも、ノルシュテイン作品にはますます興味が湧いてきました。
ぜひとも観賞の機会をつくりたいと思います。


そういえば、山村浩二氏もノルシュテイン大賞受賞者だったのですね。
山村作品、代表作とされている「頭山」は個人的にはいまひとつ好きではないのですが、粘土アニメーションの「パクシ」「カロとピヨププト」が大好きです。
とりわけ「パクシ」は、脱力系の妙なキャラクターを用いつつ幼少期の心象を見事に切り取った隠れた名作だと思っています。


なお、ざらえもんさまのブログ該当記事
番組紹介記事は→こちら
感想記事は→こちら



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
aiwendilさんもご覧になったのですね。 (ざらえもん)
2005-05-17 20:45:20
aiwendilさんもご覧になったのですね。
さすが、分析の達人は目のつけどころがシャープですね。(うん?どっかで聞いたフレーズ??)
佐藤雅彦氏のアニメなんて、思いつきませんでし。
言われて初めて、「そういえば、あれもアニメだった」と気付いたくらいです。
そうですね、凄く対照的、というか、表現しようとしている物が違うから、比較できないですね。
豆腐と蒟蒻の違いみたいな感じでしょうか????(わかりにくい!!!)
aiwendilさんは、ノルシュテイン監督の言葉を「近頃の若者は・・」的にとらえたのですね。
私は、「若いうちに、多くの知識を吸収して、経験も重ねておきなさい。」と言われているのだと思ったのですが・・。
実際、うちの娘もそのクラスメイトもそうですが、モノを創造する勉強をしているわりには、興味の幅が狭いなぁ・・と感じています。
もちろん、そうでない学生も沢山いらっしゃるのでしょうが、常に意識していないと、自分の周りだけしか見なくなってしまうのじゃないかなぁ・・・それを警告したのだと思うのですが・・。違うかなぁ???


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>ざらえもんさま (aiwendil)
2005-05-19 02:26:19
>ざらえもんさま

アニメーションの原義はたしか、「命を吹き込む」という意味だったと記憶しています。そういう意味では、ノルシュテイン氏の作品は原義的なアニメーションなのかなあと思いながら見ていました。

「最近の若者は・・・」という風に聞こえたのは高畑氏の言葉のほうなんです。いろいろな現象を憂えるのはわからないでもないのですが、「CMが嫌い発言」をしてみたりと、むしろ世界を狭めてらっしゃるような気がしてなんだか勿体無いなあと。

一方で、ノルシュテイン氏と若手クリエーターたちの会談場面では「ノルシュテインさん、それはたぶん、伝わってないよ~~」とハラハラしながら見ていました(^^;。
対話や質問がなかったのが不思議で仕方がなかったんです。
(それとも編集の都合でカットされていたんでしょうか?)
言葉の壁もあるでしょうが、指摘事項に対して参加者が「それはこれこれこういう意味ですか?」とか「それは具体的にはどういうことですか?」とか、「自分はこれこれこういう理由でこのように解釈していますが、あなたがべつの解釈をした理由はなぜですか?」とか、そういうことをなぜ聞かないんだろう? と・・・。
ノルシュテイン氏も「世の中にはこんな素晴らしい表現があるんです」とか「日常にはこんな驚きがひそんでいるんです」とか、聞いている側が一緒に「おおっ!」と思えるような具体例を挙げながら話していたら、言わんとしていることをもっとはっきりと伝えられたのじゃないか、と・・・。
双方にとってまたとない機会なのになあと、わたくし、勝手に残念がってしまいました(^^;。

ところで、最近読んだ本(「情報デザイン 分かりやすさの設計」グラフィック社 2002年)の中に深沢直人氏のテクスト(p98-109)がありまして、その中に「気付かないインターフェイス」という概念が出てきました。これ、人間がとくに考えなくても無意識のうちに認識できる操作接点のことを指しています。たとえば、傘を壁に立て掛けるときに床に浅い溝があったら無意識にその溝を利用して傘が倒れないように置いてしまうのは、その溝が気付かないインターフェイスとして機能しているからなのだそうです。これを応用すれば、「床に刻んだ1本の溝=傘立て」というデザインが成立する、と深沢氏は例示していました。こういうふうに、日常にひそむ共通感覚をうまく抽出して形に活かすことで優れたデザインを生むことができるのだそうです。
わたくし、この記述に「なるほど!」とたいへん感銘をうけたんです。この概念はデザイン以外にも応用できるのじゃないかと。

このようなものを読んだ後だったので、番組を見ながらふと、思ったわけです。
何かと重みや深みが要求されがちな表現の分野にもこういった水面下の受容ポイントがあってもいいのじゃないか、と。
激しい主張や声高な主張ばかりでなく、「いつの間にか気に入っていた」と思わせるような表現も評価されていればいいなあと思ったわけです。

この世の中にはどんなところにだって必ず素晴らしいものがあるはずで、その素晴らしさを発見してスムーズに伝えることがどんな分野でも大切なのかな、と、そんなふうに思いました。

何だか本筋とは大きくはずれてしまいましたが、番組を見ながらこんなふうにいろいろと考えたりしておりました(^^;。
要領を得なくてすみません・・・。
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