はざまの庵

分類し難い存在を愛でる覚え書き by aiwendil お気軽にコメントをどうぞ。

東京遠征5/19(電通大ラボ公開、G2プロデュース「ツグノフの森」)。

2007-05-20 09:36:10 | アートなど
昨日5月19日は、東京でイベントひとつと芝居を1本観て参りました。

まずは、調布の電気通信大学ラボ公開。
縁あって3つの研究室を拝見してきました。

・長谷川研
バーチャルリアリティ技術を扱っている研究室。
昨年のメディア芸術祭でも拝見したvirtual browneis-kobito- のバージョンアップ版が あったり、動きに視線を付与したインタラクティブシステムがあったり、パドルで水を掻く感じがかなりリアルなバーチャルカヌーがあったり、と、基礎となる知識がなくとも、観て体験するだけで非常に楽しめました。情報の送り手であるシステム側と受け手側である人間の反応との接点を重視したアプローチで新しいシステム開発を行っているように見受けられました。説明がなくとも直感的に使い方が理解できるシステム展示に、その特性が表れていたような気がします。

・山田研
近赤外線による非侵襲的解析技術を扱っている研究室。
生体、主に医療分野を想定した新しい測定法を開発しているとのこと。
放射線を利用したレントゲンやCT、水分子の核磁気共鳴を利用したMRI、超音波を利用した超音波診断など、医療分野には様々な画像診断技術がありますが、そのどれにも短所があるもの。
そこで、制御が難しいため利用が遅れていたという近赤外線を用い、一定面積における血流の定量的モニタリング等を可能にするような、今までになかった測定法を確立しようとしているとのこと。
血流の絶対量を非侵襲的にモニタできるようになれば、外科分野や脳機能解析での利用が期待できそうな気がします。測定深度があまり取れないため新生児救命の現場での利用を想定しているとのことでしたが、物理的大きさから考えると、あるいは小動物臨床の分野でも応用できるのではないかと、そんなことを考えてしまいました。

・本間・小池研
音響解析システムと生体解析、さらに、物性材料解析が結びついた技術を扱っている研究室。
聴覚器官のモデル化と聴こえ方再現、聴覚障害治療への応用、振動利用型人工内耳システムの開発、振動センサによる内耳の診断ツール開発、などを行っているとのこと。臨床に直結するような技術開発の現場を目の当たりにして非常に興味深く思えました。
他にも、ムラサキイガイ(ムールー貝。俗に言うカラスガイ。)の接着成分の強度測定であるとか、超微小振動の検出に着目した植物の健康状態把握、自動車部品の非破壊検査、石油タンクの腐食検査など、思いもよらない技術の提示にわくわくしてしまいました。

さて、ラボを回ってみて総じて感じたのが、学生さんたちのレベルの高さ。
どんな質問をぶつけてもそれなりの答えが返ってきますし、不明な部分はなぜ解らないのか込みで正直に説明し妙に取り繕ったりしないのが、自分の研究への理解と自負の高さをうかがわせました。そうなると、こっちも研究について対話するのが俄然楽しくなってきます。本来は院入試を考えている人対象のラボ公開なので、おとなしく説明を拝聴しているだけの見学者が多かった中、ばしばし質問を浴びせたので不審がられてしまったかもしれません。ここでひそかに謝っておきます。すみません。
さらに感じたのが、苦労話の中にこそその研究の真髄があるのだということ。
質問と対話を繰り返すうち出てくるエピソードは、その技術の内包する問題点や克服すべきポイントを如実に露呈させ、それが逆説的にその研究の重要性を裏付けているようで大変興味深かったです。
他にももっといろいろ見てみたかったのですが、時間が足りなくてあまり多くのラボを回れなかったのが残念でなりません。


さて次に、三鷹の三鷹芸術文化センターで上演中のG2プロデュース「ツグノフの森」18時公演。
片桐氏と久ヶ沢氏ご出演ということで足を運びましたが、福田転球氏が圧倒的に素晴らしかったです。
以下、感想。辛口です。
ネタバレになりますので畳んでおきます。
【概要】
天変地異後に突如出現した深い森。その奥に取り残された画家のアトリエを舞台に、昏睡した恋人の目覚めを待つ青年画家、創作依頼に来たヤクザ、埋めた死体を探して彷徨う姉弟、見えない獣を養う男、アトリエを監視する傭兵などが謎めいた人間模様を繰り広げる。

【感想】
私にしては珍しく、かなり厳しい評価です。
今回はお茶を濁さず評してみます。

G2氏は一体何をやりたかったのか、いまひとつ理解できませんでした。
内容は理解できるのですが、どこに狙いと焦点があるのかがわからない。
この世にない者だけが救われて、他は皆不愉快極まりない状況に追い込まれる。カタストロフも、それに代わる突き抜けた馬鹿馬鹿しさもなし。舞台の発想は面白いけれど、後味の悪さだけが残るようで、なんとも評価し難いです。
救いの無い話を書きたかったのか、家族の崩壊と再生を書きたかったのか、虚構に支えられた薄っぺらな現実を書きたかったのか、ステレオタイプSFを書きたかったのか、ドタバタ劇が書きたかったのか、超越した異界を書きたかったのか、人間ドラマを書きたかったのか、いまひとつ判然とせず、しかもそのどれもが半端で、物語のための道具に成り下がっていたように感じます。
この作品を私なりに形容するなら「迷惑極まりない家族に巻き込まれた人々のSF的な群像劇っぽいもの」。
分かりやすい話をわざと難解に仕立て上げているところにも好感が持てませんでした。
全体が解ってみれば身もフタもない話。
その身もフタもなさを『薄っぺらい』というキーワードで乱暴にそれらしく繕ってしまったのがいただけないなあと、わたくし個人的にはそう思いました。

いっぽうで、役者陣。もったいないくらいに良かったです。
とりわけ福田転球氏の迫真ぶりが、見ていて心を奪われました。
片桐氏も久ヶ沢氏も大好きですが、今作ではあまり論じる気になれない役柄です。ある意味当たり障りが無い。
しかし、転球氏。
ミズキとミナズキ。バークレイとの対話。
狂気と超越と異界を見事に体現していたと思います。
もしも転球氏の存在がなかったら、この興行は成立しなかったのではないかとすら思えます。
転球氏だけは文句無しで見る価値ありかと。

あまりおすすめとは言えませんが、この「ツグノフの森」は6月3日まで東京三鷹市の三鷹芸術文化センターで上演されています。
恐いもの見たさな方、そして福田転球氏の素晴らしい演技を見てみたい方はぜひ。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
どうもありがとうございます。 (白片吟K氏)
2007-05-27 12:07:39
どうもありがとうございます。

>芝居自体が個人名などどうでも良い構成だったような気がします。

特に覚えていなくても、「画家」や「ヤクザ」で済む人はいいんですが、
「姉ちゃん」ではミシオがかわいそうかと思いまして・・・。
これでレビューが完成しました。
TBします(ネタバレあります)。

とりあえず御礼まで。
返信する
>TADASHI♀さま (aiwendil)
2007-05-27 01:10:57
>TADASHI♀さま
はじめまして。ようこそお越しくださいました!

同じ空間に居ましたか。奇遇ですね。
私はあのお話はわかりやすいと思います。
ところが、それをわざわざ解り難くしていると思えるのですよ。
わかりやす過ぎるものを、小手先でわざとわかり難そうに見せているとでも申しましょうか。そこが今回一番の不満です。

転球氏、素晴らしかったですよね。
私は「仮装敵国」で初見していたのですが、意識するようになったのは、piperの『発熱!猿人ショー』DVDからです。
短いながら、絶滅寸前の佐藤さんというインパクトある役どころを演じておられます。
表情が絶品。
機会がありましたらぜひ。おすすめです。


>白片吟K氏さま
遅くなりました。
間に合ったかな?

登場人物の名前の残らなさは私も同様。
思い出そうと一生懸命考えてしまいました(笑)。
記憶に残リにくいということは必要ないということ。
芝居自体が個人名などどうでも良い構成だったような気がします。個人の人間としてのキャラクターは必要とされておらず、属性だけがあればそれでいい内容だったせいではないでしょうか。

断言はできませんが、姉はたしかミシオ、弟はタケオだったと思います。
『潮出版』と『澪つくし』、そして『竹尾ペーパーショー』が連想イメージとして残っていますので(笑)。
画家はタニガワだったでしょうか?
『山と渓谷』『谷川岳』のイメージです。

バークレイは「セサミストリート」のバークレーをそのまんま想像してしまいました(笑)。
それと、『見えない怪獣』とか『探求の獣』のイメージですね。名付けや通過儀礼に関する神話・伝説を思い出しました。

他にはヨコミネ、イズミ、ペラペラで良かったでしょうか。
市長に名前があったのかどうかは思い出せません。
返信する
すみませんが、姉弟の姉の名前、分かるでしょうか? (白片吟K氏)
2007-05-25 22:16:44
すみませんが、姉弟の姉の名前、分かるでしょうか?
昨日見てきて、今レビューを書いているのですが、登場人物名をかなり覚えていないことに愕然としています。
公式ページにも役名が載っていません。

覚えているのはミズキ(ミナヅキ)と、シモダだけ。
片桐さんの役名すら忘れている。
あ、あと、バークレイ。
返信する
おそらく同じ日、同じ時間に見ていました。 (TADASHI♀)
2007-05-25 19:24:09
おそらく同じ日、同じ時間に見ていました。
検索したらこのブログにたどり着きました。
本当にわかりずらい芝居でしたね-。
そして転球さんのすばらしい演技。片桐サン目当てで見に行ったのに、それどころじゃありませんでした。
迷わずチケットとって、23日にまた見に行っちゃったほどです。もぅ、目が離せません!!
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