<言の葉の記>
棟方志功-篇
<白と黒の絶対性で>
‥‥能のもっている幽玄さを、白と黒の絶対性でつかみたい。
‥‥この頃から、白と黒の世界というものが、大切なものと思い、
この点を本当に板画でつらぬいてゆこうと思い立ったのです。
白と黒を生かすためには、自分のからだに墨をたっぷり含ませて、
紙の上をごろごろ転げまわって生み出すような、
からだごとぶつけてゆく板画をつくってゆくほかはない、と思ったのでした。
指先だけの仕事では何もない。板業は板行であって、からだごとぶつかる行なので、
よろこんで行につこう、心肉に自答決心したのでした。
<能のもっている幽玄さを、白と黒の絶対性でつかみたい>
と発願し、
<白と黒を生かすためには、
自分のからだに墨をたっぷり含ませて、
紙の上をごろごろ転げまわって生み出すような、
からだごとぶつけてゆく板画をつくってゆくほかない、と思った>
へと連なりゆく境地が、
その発意が、どうにも把みきれないまま、
しばし、ただ反芻する‥‥。
白と黒の-絶対性、
絶対的-距離、
天と地、
宇宙の縁のごとき、
有-無、‥‥
空虚としての-あらゆる仮象世界、
森羅万象、
世界-内-存在、‥‥
‥‥
‥‥
-棟方志功「ヨロコビノウタ」二玄社より