現代猫の心の病?

 去年の夏頃、いつもは好奇心旺盛で活発なちゃめの様子がどこかおかしい時があった。物陰にじっと身を潜めているし、歩くときも飾り棚の下など部屋の隅っこをこそこそ歩く。だが普段ともっとも違うところは、一番懐いているはずの父を避けたことだった。
ちゃめはいつも父にべったりで、よく膝の上で丸くなるし、父のあとをついて回って、父が長めに外出するとまだかまだかと帰りを待ったりするほどである。それが、父が手を伸ばしてもこそこそと逃げて行ってしまう。
この行動のほかは、食事も排泄もとくに変わったことはなかった。結局、3、4日経つとけろりと治って、いつものおてんばちゃめに戻ったが、このちゃめの症状は人間のうつ病に似ていないかと父は言うのである。
不思議なのは、その症状が一週間ほどあとに父にうつったということだ。ちょうどそのとき父は泊りがけで登山に出かけていたのだが、理由なく気分が落ち込んで面白くなく、山の美しい景色を見ても少しも心を動かされなかったのだという。
もしや、猫にも人にも感染し、罹るとうつの症状が出る新種のウイルスか、などと言って皆で不思議がっていたのだが、そんなウイルスは眉唾物だとしても、そのおかげで、女性特有の落ち込んだ気分を父が理解できるようになったのは、母と私にとって予想外の収穫であった。
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