日本全駅駅長猫化計画

 すっかり有名になった和歌山電鉄貴志駅のたま駅長は、仕事をする猫の日本代表としてフランスのドキュメンタリー映画への出演も決まり、このあいだ、撮影が行われたそうである。
 ニュースなどで、たま駅長の仕事ぶりを見て思うことは、なんと温厚なお猫柄だろうということである。年齢はもう9歳であるというから、もっぱら一日を寝て過ごすことが多いのかもしれないけれど、新しく作られたガラス張りの駅長室で大人しく執務など、しょっちゅうあっちこっちうろついて、屋根の上に登ったりするちゃめや、どんぐりを転がして走り回ったりするみゆちゃんでは、とてもじゃないけど務まらない。たま駅長と同名の、実家のやる気のないタマや、デビンちゃんなら、ほとんど寝て暮らしているから、あるいは務まるかもしれない。ちゃぷりもほとんど寝てばかりだけれど、こちらは人見知りが激しいから無理である。
 たま駅長に続き、この春には、福島県の芦ノ牧温泉駅の名誉駅長に「バス」という猫が就任したというニュースがあった。こちらのバスは猫らしいマイペースな無愛想さが受けているらしい。
 いつの時代のことだったか忘れたが、イギリスの駅には、駅構内のネズミを捕まえる役職の猫職員がいて、ちゃんと猫の名前の書かれた職員札もあり、俸給としてえさをもらっていたという。
 今の日本でも、一駅に一匹(以上)の猫を置くようにしたらどうかしらん。アニマルシェルターとか動物愛護センターから素質のある猫(温厚だとか、やる気がないだとか)をもらってきて、どんどん駅長を猫化させたら、それで救われる猫も増えるし、駅ごとに駅長の肉球スタンプを発行して(駅長への負担を減らすため、一回型をとったら、後はコピー)、それを集めたらご利益があるとかいうふうにすれば、猫好きはこぞって電車に乗るだろうし(私だって乗る)、鉄道会社も儲かって、双方万々歳ということになると思うのだけれど。

「たま駅長」、世界で絶賛 和歌山電鉄の人気猫「業績改善に貢献」(産経新聞) - goo ニュース

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タマ対トラ

 曲がり角の向こうから、猫のにゃあ、にゃあと鳴く声が聞こえてきたので、誰が鳴いているのだろうと思ったら、次には、ギャーッというけんかの声と同時に、道が曲がって消えていくその先から、かきむしられた毛の塊がふわふわとたくさん風に乗って飛んできたので、あわてて生垣の角の向こうへ駆けつけたら、ちょうど私の足音を聞いて、取っ組み合っていたタマとトラが分かれたところらしく、トラはそのまま、まっすぐな小道を駆け足で逃げて行った。
 タマはと言えば、すっかり怖気づいてしまい、実家の塀の上に駆け上って、やっぱりけんかの声を聞いて家の中から飛び出してきた父がいくらなだめても、なかなか降りてこなかった。飛び散った毛の模様を見てみたら、タマの白と茶色が混じった毛のようであった。
 少し前から、外猫用のえさを大きな茶トラの雄が食べに来るようになって、タマとしょっちゅう衝突するようになっていた。タマは弱いから、体のあちこちにけんかの傷を作ってくる。今までのように、家の中でずっと寝ていればいいのだが、縄張り意識があるのだろう、引き止めてみても、にゃあにゃあ鳴いて、外へ見回りに出て行く。負けるとわかっていてもトラに立ち向かっていく、そんなタマのうしろ姿は、今まで食べて寝るだけだったタマの株をちょっと持ち上げた。
 あるときは、けんかをして帰ってきたタマの首輪がなくなっていた。首輪のあった場所には、新しい引っ掻き傷が出来ていたから、トラにとられたらしかった。今頃、トラがタマのピンク色の首輪をつけてるんじゃないかなどと冗談を言って笑ったけれど、いつかタマが追い出されてしまうようなことがあっては困るから、トラにはかわいそうだけれど、余分に外猫用のえさを置くのはやめにしようかという話になった。
 その後、外へ出て行ったタマが一晩帰ってこなくて心配したりしたのだけれど、あるときを境に、急にタマは外回りをやめてしまった。トラとのあいだで決着がついたようであった。弱いなりにも縄張りを守って、駄猫の汚名を返上したタマだけど、もうすっかり以前のタマに戻って、ほぼ一日中、家の中でごろごろしている。そんなやる気のないタマに、父も母もひと安心である。
 ただ、この前の雨の夜に、トラがずぶ濡れになりながら、外の皿に残った十粒ほどのキャットフードを食べに来ていたらしく、タマの敵とはいえその姿がかわいそうで、今度はこちらを心配して、どこかタマと争わないところに、えさを出しておこうかと協議している。


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煮干の顔

 みゆちゃんに煮干をあげると、たいてい、テーブルの上に置いてやるのを、わざわざ前足で突付いて、下に落としてから食べる。食べる前に、まず落下する様子を眺めて遊んでいるように見える。ほかに猫ライバルがいたらそんなのんびりしたことはできないだろうが、みゆちゃんは一人っ子なので、余裕がある。
 いつも頭とお腹のところは食べずに残している。みゆちゃんの食べ残しをみると、煮干の顔だけがきれいに残っていて、口しか使わないのに、よく器用に分別できるものだなあと感心する。
 みゆちゃんが食べているのを見て、息子が自分もほしいと言うのであげるけど、こちらは頭もおなかも全部食べている。二人が食べているのを見て、そんなにおいしいのかしらとときどき私も食べてみるが、やっぱり全部食べる。
 人間が丸ごと食べているのに、猫のくせに贅沢な、と思うけれど、猫と人の体のサイズを考えれば、猫にとって煮干は人が鮎を食べるくらいの大きさだろうから、頭とお腹を残すのも、猫にとっては妥当なのかもしれない。


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乾しカマを所望いたす

 みゆちゃんはよく、カニカマを乾した「乾しカマ」と煮干をおやつに食べるのだけれど、乾しカマのほうは、しばらく前に切らしてしまってから、いまは家にない。
 ないのだけれど、みゆちゃんは乾しカマの味が忘れられないらしい。以前乾しカマを仕舞っていた冷蔵庫を開けるたびに、テーブルの上から身を乗り出してきて、うっかりすると冷蔵庫の中に入ってしまうから、私は、いまは乾しカマないんだよとみゆちゃんが冷蔵庫に入ってしまわないよう押さえつつ、マヨネーズやら、マーガリンやらを取らなければならない。
 乾しカマがなくてかわいそうなので、代わりに煮干をあげようと、部屋の反対側の上のほうについている戸棚を開けていると、テーブルの上に座ったみゆちゃんは、「違う」というような顔をしてこっちを見ている。
 袋の中から一匹取り出して、目の前に置いてやっても、やっぱり「ちがう」といいたげな、不満そうな顔をしているが、乾しカマが出てこないとわかると、ぼちぼち煮干を食べている。
 なるべくはやく、乾しカマを買ってやらなければならないと思う。


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