「サファイア」と名付けられた新日本フィルの横浜シリーズ。今月は北欧の楽曲が並ぶプログラムに出向いてきた。
クラシック音楽の醍醐味とは、同じ楽曲でも演奏家によって全く別の音楽に感じることと、幾度となく書いてきたが、まさしくアントンKの鑑賞の在り方がそうで、一つの楽曲を複数長い間飽きるまで聴いてきた。意識してからおよそ40年以上そんな聴き方だったが、随分長い間聴いてきた割には、レパートリーが案外少ないことに気が付くのだ。まあアントンKにとっては、音楽鑑賞は趣味であり、一生の友だから、好きなものを好きなだけ聴けばいいと開き直った時期もあった。しかし今までの自分自身の枠でくくった音楽だけで満足することは、視野が狭いと常々感じていたことだったのだ。実際そう思っても、日常の時間に追われ、なかなか新たな音楽へのアプローチは難しい。そもそも音楽に垣根(ジャンル)はないと考えていた学生の頃、クラシック音楽だけの枠に収まっている自分自身が嫌になり、J-popやロックをたくさん聴き、好きなアーティストもできたものの、今ややはりアントンKの本命はこのクラシックという分野らしい。
何事もきっかけは大事で、現在お気に入りの音楽家が自分の知らない未知の世界へ誘ってくれる今回の演奏会は、別の意味で楽しみにしていたのだ。
さて今回の演奏会は、日本とデンマークとの外交関係150周年を祝った演奏会であり、指揮者上岡敏之も現在コペンハーゲン・フィルの常任指揮者でもあることから実現したもの。前半後半と3つの楽曲が並んでいるが、アントンKにとっては、グリーグ以外の2曲は全く聴いた経験がなかった。今回の演奏会にあたり、何度か録音で聴いてみたが、ニールセンやツィムリンスキーの実演は、珍しい部類のプログラムではないだろうか。いつもの上岡/新日本フィルのコンビがどんな演奏を聴かせるのかが今回の最大の関心事となった。
いつも書いているように、楽曲自体の鑑賞経験が少ないから、指揮者上岡の独自性や増してや解釈などは理解できはしない。しかし今回通して鑑賞してみて一番感じたのは、今まで何度も聴いてきた新日本フィルハーモニーの音がまた違って聴こえたこと。ニールセンの「ヘリオス」は、音色が寒く冷たい風を感じてしまった。ハーモニーがホールに染み渡り澄み切っていたのだ。ツィムリンスキーにも同じことが言えるが、静と動との対比が美しくダイナミックレンジが大変広いことに驚かされた。これらは指揮者上岡の指示だろうから、オケの能力向上や意思疎通はさらに上がっているといって良い。打楽器群をはじめとするアタックは、メリハリが強く刺激的。それとは対照的なコンマス崔文洙の甘い女性的な響きは印象的なポイントとなった。アンコールに「シャンパン・ギャロップ」を持ってきたのも、演奏会を最後は楽しくお祝いムードに変えてしまった上岡氏の楽しい演出に他ならない。
こうして今思い出しながら綴っているが、また聴きたいと思える楽曲のように感じている。今回は全てが新しい発見にも思うが、未知の楽曲の演奏を通して指揮者やオケの新たな色彩を味わったようで、とても充実した心持になっている。
2017-10-15 特別演奏会 サファイア
ニールセン 序曲「ヘリオス」OP17
グリーグ ピアノ協奏曲 イ短調 OP16
ツィムリンスキー 交響詩「人魚姫」
アンコール
ハンス・クリスチャン・ロンビ 「シャンパン・ギャロップ」
指揮 上岡敏之
ピアノ 清水和音
コンサートマスター 崔 文洙
横浜みなとみらいホール