ミッチーことマエストロ井上道義は、今年で現役引退を宣言しているが、いよいよ押し迫ってきた今週、新日本フィルとの最後の公演を鑑賞してきた。ベートヴェン、ブルックナーを始めとしたドイツものを中心に長年鑑賞してきたが、最後は井上氏の十八番とも言うべきショスタコーヴィッチ、それも最も過激に感じる第7交響曲となった。
演奏そのものの感想は、やはり想像していた通り凄いものがあり、全身全霊で楽曲に向かう姿勢に感動すらしたが、何より指揮者、オーケストラの意思疎通が完璧と言えるほど一つになっていて、集中力が目に見えるようで、聴衆にもそれがビンビン伝わってきた。楽曲の出だしからオケの鳴りが良く、すぐに引き込まれたが、全体を通して精神的な気高さは一貫していたように思う。約80分の長い楽曲も、あっという間に感じるくらい心を持っていかれていたアントンKだったが、最後の音が消えて、終演した時の井上氏とコンマス崔氏との安堵の表情が良かった。長い年月をともにして、ここにやり終えたというような安堵の表情が忘れられない。この演奏会は、普段とは違う空気が流れていたように思えるのである。
マエストロ井上道義氏、昔と何ら変わらずお元気で、お茶目な身振りも相変わらずで楽しい。これぞエンターテイナーそのものなのだが、おそらく来年からも何か自分の中でお考えがあるのだろう。きっと我々ファンを喜ばせる何かを持って再び現れるのではないか。期待して待つことにしたい。
第659回 新日本フィルハーモニー交響楽団定期演奏会
ショスタコーヴィチ 交響曲第7番 ハ長調 OP60 「レニングラード」
指揮 井上 道義
コンマス 崔 文洙・伝田 正秀
2024年11月18日 東京サントリーホール