杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

そして父になる

2013年09月25日 | 映画(劇場鑑賞・新作、試写会)
2013年9月28日公開(9月24日~27日先行上映) 120分

大手建設会社に勤務し、都心の高級マンションで妻みどり(尾野真千子)と息子慶多(二宮慶多)と暮らす野々宮良多(福山雅治)は、誰もがうらやむエリート街道を歩んできた。ある日、病院からの電話で、6歳になる息子が出生時に取り違えられた他人の子どもだと判明する。血縁か、これまで過ごしてきた時間かという葛藤の中、どうせなら早い方がいいという良多の意見で、妻のみどりや取り違えの起こった相手方の斎木夫妻(リリー・フランキー、真木よう子)は、それぞれ育てた子どもを手放すことに苦しみながらも、互いの子どもを“交換”することになるが……。


第66回カンヌ国際映画祭 審査員賞を受賞作品。福山雅治が初めて父親役を演じています。
息子が出生時に病院で取り違えられた別の子どもだったことを知らされた父親が抱く苦悩や葛藤を描いたドラマということで、福山さん演じる野々宮目線で描かれていました。

野々宮良多は典型的な勝ち組人生で、従順で家庭的な妻と温和で優しい息子との生活にも順調な仕事にも満足していました。息子にも自分と同じような勝ち組人生を歩ませようと、私立のお受験をさせピアノも習わせています。それが突然、慶多は自分と血が繋がっていないと知らされるのですが、妻への第一声に彼の本音が曝け出されています。あの一言は母として妻として考える時、やっぱり「一生忘れられない」衝撃を与えますね

取り違えられた先は群馬(みどりは里帰り出産でした)で小さな電気店を営む斉木夫妻です。粗野な言葉遣いや、お金への執着態度などに違和感を覚える野々宮は、いっそ両方引き取ってしまえばと冗談めかした上司の言葉を実行に移そうとします。それも最悪のタイミングでいや、そりゃ無理ですって!相手の気持ちを慮ることのできない良多に斉木夫妻だけでなくみどりも彼の態度をなじります。しかし実父(夏八木勲)に「いずれ向こうの子はお前に似てくる、逆に慶多は向こうに似てくる。血の繋がりには勝てない」と言われたことが頭から離れない良多は、結局交換を提案するのです。

ファーストフードを食べながら互いの子供を遊ばせることから始めて、週末のお泊りを繰り返し、交換前には記念の河原遊びをして写真を撮ったり・・無邪気に遊ぶ子供たちを見つめながら親たちの胸中は複雑です。斉木夫妻はいわゆる勝ち組ではないけれど、子供への愛情に溢れています。野々宮夫妻と逆で妻の方がポンポン物を言う彼らの会話がちょっとコミカルです。斉木は子供たちと良く遊んでくれるし、玩具も直してくれます(電気屋さんですもんね)社会的ステータスなんて子供からしたら大して意味のないものだと思わされます。父親たちが殆ど私的交流をしないのと対照的に、母親たちは互いの子供の情報交換を頻繁にしています。尾野&真木の組み合わせは今春のドラマの記憶が新しくて、配役逆の方がなんて思ったりもしながら観ていましたが、観終わってやはりこの配役で正解なんだと思いました。

そもそも昭和の時代ならともかく、今取り違え事件なんて起こるのか?という疑問が湧きますが、裁判で故意に起こされたものだと判明します。はからずも事件発覚時にみどりの母(樹木希林)が「あんたたちの恵まれた生活を誰かに恨まれてなんてことじゃないんだから」と言いましたが・・・その動機は身勝手なものでした。それなのに時効が5年だなんて短すぎじゃないの?
視点が野々宮にあるので病院側の対応が事務的過ぎるのは進行上の都合と解釈しておきますこういうケースの場合100%交換することになると言う・・自分に置き換えた時、結論が出せるかなぁ?と考えながら観ました。

しかし、本当の苦悩は子供を交換してから始まったのかもしれません。相変わらず多忙で家で子供と接する時間の少ない良多。実の息子の琉晴(黄升)が見せる寂しい横顔に胸が痛くなります。
だって今までは弟妹と、家にいて遊んでくれる父や気風の良い母に囲まれて賑やかに育ったんだものね。一方、慶多は良多にミッションと言われ、素直に斉木家で暮らし始めますが、彼の心も父母の諍いを聞いた夜から傷ついていたんだねいや、二人ともこの奇妙な交流が始まった時点からきっと小さな胸を痛めていたんだと思います。

琉晴が黙って斉木家に戻った日、この小さな家出で良多の心に変化の兆しが見えます。良多は子供の頃、父が再婚したことで義母に馴染めず本当の母に会うため家出した過去を思い出します。他者の痛みを自分に重ねることが出来たことで、彼の息子への接し方が変わっていきます。父が変われば息子も変わる。琉晴が初めて「お父さん」という言葉を口にした時の良多の表情がです。

交換後は斉木家と会わないと決めていた良多が、それを翻したのも当然の帰結ですね。
慶多に詫びて二人の間の6年間の絆を取り戻した時、両家族にとっても新たな関係が始まったのかもしれません。ラストの彼らの温かな笑い声がそれを伝えているかのようでした。

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