杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

怪物はささやく

2018年05月02日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2017年6月9日公開 アメリカ=スペイン 109分

裏窓から教会の墓地が見える家で難病の母(フェリシティ・ジョーンズ)と暮らしている少年コナー(ルイス・マクドゥーガル)。ある晩、彼の前に怪物(声:リーアム・ニーソン)が現われ、これから3つの「真実の物語」を語ること、そして4つ目の物語をコナー自身が語るよう告げる。しかもその内容は、コナーが隠している「真実」でなければならないという。嫌がるコナーをよそに、怪物は夜ごと現われては物語を語りはじめる。


イギリスの作家パトリック・ネスの本を「永遠のこどもたち」のJ・A・バヨナ監督が実写映画化しています。孤独な少年と怪物による魂の駆け引きを幻想的な映像で描いたダークファンタジーです。

怪物の話す“切り絵”のような美しいアニメーションで表現される物語は、どれも理不尽で意外な結末であり、全然ハッピーエンドではありません。コナーは都度「どうして?」と抗議の声を挙げますが、怪物は正論を語るのみで消えてしまいます。それはまさに理不尽に溢れる現実そのものを教えているかのようです。

コナーの両親は離婚していて、父親(ドビー・ケベル)はアメリカで再婚しています。死期を悟った母はコナーを祖母(シガニー・ウィーバー)に、そして父に託そうとします。でもそれは大人の理由。コナー自身の心の葛藤はまた別なのです。

やがて4つ目の物語を語る番がやってきます。

コナーの母に対する本音。それは母の回復を願う気持ちの裏に潜む、諦めと結末を望む矛盾した感情です。そんな気持ちを抱く自分の非情さを恐れる心が怪物を呼び寄せたのでしょうか。

しかし怪物はコナーに、人間は矛盾する生き物なのだからそれで良いのだと言います。大事なのはその感情に目を背けるのではなく受け入れて前に進むことなのだと。それはなかなかに覚悟のいることです。そのことを教え、寄り添うために怪物は現れたのですね。怪物はイチイの木であり、イチイは癒しの木です。これは癒しの物語なんですね。

コナーの目線の他、息子を心配する母の心情や、祖母の娘や孫への慈しみの心情も描かれていて、大人目線で見ても良作です。


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