杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

パッドマン 5億人の女性を救った男

2019年06月23日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)

2018年12月7日公開 インド 137分

インドの小さな村で新婚生活を送る主人公の男ラクシュミ(アクシャイ・クマール)は、貧しくて生理用ナプキンが買えずに不衛生な布で処置をしている最愛の妻ガヤトリ(ラーディカー・アープテー)を救うため、清潔で安価なナプキンを手作りすることを思いつく。研究とリサーチに日々明け暮れるラクシュミの行動は、村の人々から奇異な目で見られ、数々の誤解や困難に直面し、ついには村を離れるまでの事態に…。それでも諦めることのなかったラクシュミは、彼の熱意に賛同した女性パリー(ソーナム・カプール)との出会いと協力もあり、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。農村の女性たちにナプキンだけでなく、製造機を使ってナプキンを作る仕事の機会をも与えようと奮闘する最中、彼の運命を大きく変える出来事が訪れる――。


現代のインドで、安全で安価な生理用品の普及に奔走した男の実話を映画化したヒューマンドラマです。モデルとなったのは1962年生まれのアルナーチャラム・ムルガナンダム氏。商用の3分の1の低コストで衛生的な製品を製造できるパッド製作機を発明し、女性たち自身がその機械で作ったナプキンを女性たちに届けるシステムを開発した功績により、2014年米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリを授与されています。日本では当然のように普及していたナプキンですが、インドではまだまだ迷信による不衛生な状態に女性が置かれていたというのは少なからずショックを受けました。

映画の冒頭で描かれるのは、ラクシュミとガヤトリの初々しくも愛溢れる暮らしの描写です。手先が器用なラクシュミは、妻のために自転車の後部座席を作って二人乗りで外出します。色鮮やかな結婚式のシーンから暫く、甘い生活が続きますが、ある日、ガヤトリが家の外に・・・月の触りの女性は不浄とされ、家の外で過ごすんですね 妻を娶るまで、女性のそのようなしきたりに気付かずにいたラクシュミは、妻が汚い布で手当てをしていることにもショックを受けます。そんな不衛生なものを当てていては病気になってしまうと心配して、ナプキンを買いにいったラクシュミはその値段にさらに驚くことになります。それでも妻のためにと買ってきたのに、高すぎてもったいないと拒否されてしまうんです。このことがきっかけとなり、彼は真剣にナプキンを自作することを思いつくのです。

でも古い因習を打破するのは並大抵のことではありません。当の妻でさえ恥ずかしいと嫌がるので、彼は動物の血を使った実験や、女子医科大の学生に協力を仰いだりするのですが、逆に村人の好奇な目と非難に晒され、母や妹たち、妻さえも家を出ていくと言い出します。これが同性である女性が作るのであれば、周囲の評価も変わるのでしょうけれど、あいにくラクシュミは男性なので彼の行動は全く理解されないどころか変人扱いなのです。

村を出たラクシュミはそれでも研究を続け、市販品の材料がセルロース・ファイバーであることを知ります。さらに大手企業が使う大きな機械にヒントを得た彼は簡便な製造機を発明します。試作品をパリーに渡したことがきっかけで、彼女の協力が得られ、工科大学でのデモンストレーションで賞を獲ります。特許を取ればというパリーの提案に、ラクシュミは金儲けのために作ったのではない、貧しい女性たちの少しでも助けになればと考えていると話します。その後二人は、女性たち自らが機械を使ってナプキンを製造し販売するシステムを構築していくのです。

愛する妻のために始めたことなのに、当の妻は夫の行為を誤解し拒否します。一方、パリーはラクシュミの一途な思いに賛同して彼に協力するうちに彼を愛するようになっていきます。ラクシュミが成功したのは半分以上パリーの助力にあるように見えるのだけど、最終的にラクシュミは妻の元へ帰っていくんですね。もしラクシュミが妻からパリーに愛情を移したとしたらそれはそれで興覚めだったかもですが、やっぱり少しだけもやっとしますねぇ ガヤトリは良くも悪くも無知無学な村の女性で、パリーは進歩的な都会の女性。どちらが良い悪いではなく、やっぱりラクシュミの行動の原点は妻への深い愛情だったということですね。

学のないラクシュミの、アメリカで拙い英語を使ってのスピーチはユーモアと女性への尊敬に溢れた素晴らしい内容でした。基本、ものづくりや発明は、それを使用する側への愛情から湧き上がるものなのだと再確認できる作品です。


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