2016年4月16日公開 ノルウェー 88分 G
IKEA創業者の誘拐を決意した小さな家具店主が巻き起こす珍道中を描いた、ノルウェー製ヒューマンドラマ。ノルウェーの街で40年以上にわたって小さな家具店を営み、クオリティの高い家具にこだわり続けてきたハロルド。ところがある日、店の目の前に家具販売チェーンIKEAの北欧最大店舗がオープンし、ハロルドの店は閉店に追い込まれてしまう。さらに愛する妻まで失い、怒りを募らせたハロルドは、IKEAの創業者カンプラードへの復讐を決意。カンプラードを誘拐するためスウェーデンのエルムフルトを目指す。途中で知り合った孤独な少女エバも加わり、誘拐計画を実行に移すが……。主人公ハロルド役を演じるのは、ノルウェーを代表するベテラン俳優ビョルン・スンクェスト。(映画.comより)
IKEAは日本にも展開している世界最大の家具量販店。。IKEAの創業者カンプラードの開店挨拶をTVで見ていた妻のマルニィは「あほんだら」と呟き、ハロルドは「こうしてやる!」とリモコンのスイッチを押してTVを消します。当然ながら町の小さな家具店が太刀打ちできる相手ではなく、ハロルドの店はたちまち閉店に追い込まれてしまいます。店舗兼住宅も手放さざるを得なくなり、ハロルドは「クソやろう!」と叫びます。マルニィの認知症も進行して、施設に入れないと約束していたハロルドでしたが、入所させなくてはならなくなります。しかし入所当日、妻は癇癪を起してハロルドやスタッフに「あほんだら、アバズレ」 と暴言を吐くと心臓発作を起こして亡くなってしまいます。(それにしても口の悪い夫婦だこと)
オスロにいる息子のヤンに連絡しようと電話しますが、息子の態度に店のことも妻の死も告げることができず、何もかも嫌になった彼は、店と自分に家具用高級ワックスを撒いて火を付けます。ところが頭上のスプリンクラーが作動して自殺に失敗した彼の目に向かいのIKEAが映り、ある考えが浮かびます。
古い車を引っ張り出してヤンを訪ねたハロルドは、酒浸りの息子が地下に作った射撃場を見せられ、そこにあった銃をこっそり懐に隠します。夕食の席で、息子が失業したことを知らされ、マルニィとの「夜の思い出」を口にしてヤンの妻に激怒された彼は訪ねた理由を話すことができず、家に溢れるIKEA製品も面白くありません。
翌朝、ハロルドは遺品をヤンに渡しマルニィが死んだと言い残して出発します。
一日中運転してスウェーデン・エルムフルトまでやってきたハロルドは、眠気を催し車中で寝てしまい、翌朝雪に埋もれた車を見かけた16歳のエバに起こされます。勝手に助手席に乗り込んできた彼女は、家出してきたと言いました。話の流れで誘拐計画を告白したハロルドにエバは興味を示し、カンプラードの自宅に案内し、番犬がいるから防御した方が良いと親切に助言します。
エバと別れたハロルドは、犬から身を護ろうとIKEAで梱包用“プチプチ”を買って体に巻いてカンプラードの家に侵入しますが留守のようです。(動く度にプチプチが割れる音がして笑いを誘います。)居間に置いてあった高級椅子でつい寝入ってしまったハロルドは、帰宅した主はカンプラードとは別人です。施設の入居者と勘違いされ応対されるハロルド。そりゃ~全身プチプチ巻いた老人をまともとは思わないものね。実はエバが計画を止めようと嘘を付いたのでした。
ホテルに戻ったハロルドは、エバが男に捨てられて酔っ払い暴れる母を介抱しているのを目撃します。(家出はしたものの母が心配で戻ったのね。)ハロルドに気付いたエバから頼まれて家に送った帰り道、車が故障して立ち往生する老人を拾いますが、なんとこれがカンプラード本人。すぐに彼に気付いたハロルドをカンプラードは、“ショーベルグ”(IKEAの暴露本の筆者)と呼びIKEAまで送ってくれと言います。(ストーカーみたいな意味で揶揄しているようです。)
まさに飛んで火に入る夏の虫、鴨葱状態ですね。送ると見せかけ銃で脅してホテルに軟禁するハロルド。これもIKEAで用意したガムテープで手足を縛りますが、何か言いたそうなカンプラートに、口だけは外してあげます。トイレにも行かせて手を貸す件も笑えます。誘拐なのにする方もされる方もまるで緊迫感がないんだもの。
ハロルドの高級ワックスの匂いに気付いたカンプラートは、彼が何者かに気付きます(火事のことはニュースになっているようです)が、IKEAの企業姿勢を誇り、ハロルドに金を払うような無駄はしないと言い切ります。
翌朝、部屋にやってきたエバはカンプラートがいることにも驚かず、早速身代金を要求するため彼の息子に電話しようと言い出します。電話で居場所がばれると言うカンプラートに同意した二人は、冬場に使われていないキャンピングカーに連れていきます。そこでもカンプラードは泰然としてIKEAへの自分の功績を自慢します。
ハロルドは、カンプラートの“みなさんにクズを売ってすみません”との謝罪動画を配信しようとしますが、逆にハロルドに今誘拐を止めたら罪は軽いと諭されます。ハロルドは「お前のせいで全て失った」とキレます。
食料を調達に出かけたハロルドとエバが戻ると、鎖を外したカンプラードが森へ逃げていました。慌てて追うと、凍った池に落ちて助けを求めています。助けようとしてハロルドも落ちてしまい、その様子を見たエバは思わず笑ってしまいます。カンプラードは先に助けられると再び逃げ出したので、捕まえたエバは蹴りを入れますが、それを止めたのはハロルドでした。キャンピングカーに戻って、身体を温めるために渋々抱き合う老人二人の姿に爆笑です。
エバの母親を気遣う様子を見て誘拐はどうでもよくなったハロルドは翌朝カンプラードを解放して車から追い出します。(本当にいいの?というそぶりを見せるカンプラードも何だか可愛い)
エバを家に送り、彼女の母の演技(新体操のチャンピオンだった)を見てやると嬉しそうに踊り、拍手すると満足そうな母。彼女は自分を認めてくれる相手が欲しかっただけなのだな~と気付かされるエピソードです。
再びエバと別れ車を走らせていると、何かに気付きトランクを開けるハロルド。中にはカンプラードがいて、店まで送って欲しいと言われます。誘拐した相手によく言うよ!相当な神経の太さだな~~。
閉店後の店内で語り合ううち、息子から経営から退くことを望まれ、脱税や児童就労、ナチいった疑惑を向けられることにもウンザリなカンプラードは、店に火をつけて記事にしようと言い出します。ハロルドが止めようとした際に銃が暴発しますが、弾はIKEAのまな板が受け止めて無事でした。頑丈だけどみんなが買える値段にしているのだと呟いたカンプラードは、ハロルドに寛ぐよう勧め、本当の価値は椅子ではなく座る者にあると話します。
寝る前に「メリークリスマス、ハロルド」と言ったカンプラードは、ショーベルグと揶揄しながら、本当はハロルドの名前を知っていました。
車がエンストし、キャンピングカーまで歩いて帰ったハロルドは、池で釣りをしようと試みますが、道具を水中に落としてしまいます。何だか吹っ切れたように笑うハロルド。
妻に追い出されたヤンの家にやってきたハロルドは、玄関前で優しい言葉をかける練習をしてみます。でも顔を合わせると何も言えません。そんな父をヤンは黙って招き入れました。二人とも不器用で似た者親子なんだね~~。
店も妻も失い、自暴自棄になって店に放火し、自らも焼身自殺しようとして失敗した挙句、諸悪の根源となったIKEAの会長を誘拐して鬱憤を晴らそうとしたハロルドですが、何故か少女を道連れに曲者のカンプラードに翻弄されていきます。切ないのに可笑しい、怒るべきなのに笑ってしまうユーモアの効いた人間ドラマを楽しめました。この老人たち、信念に生きると言う点では実は良く似ているのかも。(笑)