杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

猫のお告げは樹の下で

2023年04月06日 | 
青山美智子(著) 宝島社文庫

ふと立ち寄った神社で出会った、お尻に星のマークがついた猫―ミクジの葉っぱの「お告げ」が導く、7つのやさしい物語。失恋した相手を忘れたい美容師、中学生の娘と仲良くなりたい父親、なりたいものが分からない就活生、夢を諦めるべきか迷う主婦…。なんでもない言葉が「お告げ」だと気づいたとき、思い悩む人たちの世界はガラッと変わっていく―。あなたの心もあたたかくなる連作短編集。(「BOOK」データベースより)

[一枚目]ニシムキ
失恋した美容師のミハルへの「お告げ」はニシムキです。
彼女には時子さんという叔母がいるのですが、お洒落とは程遠く「貯金が趣味」と言っていた彼女を敬遠していました。時子さんから中古のマンションを買って近くに引っ越してきたから遊びにおいでという手紙をもらったミハルが訪ねていくと、強烈な西日の当たるリビングに通されます。でも時子さんにとってはこのニシムキの部屋こそが購入の決め手だったのです。時子さんと話しているうちに、ミハルは失恋の痛みがいつか誰かを幸せにするほど素敵なものに変わる、その時まで忘れずに待とうと思うようになります。 リビングの窓から見える夕暮れの景色の息をのむような美しさに「私はね、この空を買ったの」 という時子さんが重なりました。

[二枚目]チケット
思春期の娘との距離感が掴めず戸惑う耕介へのお告げはチケット。
娘のさつきから、彼女が大好きなアイドルグループのコンサートチケットに応募したいと頼まれてスマホで申し込んだら当選するのですが、うっかり自分の名前で応募したため、思いがけず娘と一緒に参加することになります。
そうそう!今は紙のチケットじゃなく電子チケットで本人確認が当たり前なのよね~~😖 
アイドルグループのアルバムをこっそり買って、娘の好きなアイドルの名前(たっちん)と顔を覚えて、当日は一緒にコンサートを楽しむ耕介が微笑ましい。コンサー直前に出た、たっちんの熱愛報道に凹む娘に熱く叱咤激励する姿は妻の美恵子さんじゃなくとも惚れ直すわ~~💛
二人のためにメンバーカラ―のブレスレットをお揃いで作って送り出す美恵子さんの絶妙なアシストも😊 でした。

[三枚目]ポイント
就活生の慎へのお告げはポイント。
これまで親や周囲に流されるままに生きて来た慎が、バイト先のCDショップの先輩の竜三さんからギターを借りたことで、自分の進む道を自ら考えるようになります。部屋の壁に貼った一枚の紙に★を書き込むのを見た慎に、竜三さんは「ポイントカード」みたいなものと説明します。一杯になったら喜びがもらえる、感謝の気持ちを忘れたくないのだと言う竜三さんに、慎はこれまでの自分を反省します。そして自分にしかできないことではなく、自分だからできることを探し始めるのです。

[四枚目]タネマキ
店を畳み、息子の妻と孫と暮らす哲さんへのお告げはタネマキ。
プラモデル屋を営んでいた哲は、妻の定年を機に店を畳んでのんびり暮らそうと思っていたのですが、妻から離婚を切り出され驚愕します。息子からは家族をないがしろにして自分の好きなことばかりしてきたからだと言われます。
独りで暮らしていた哲の前に、突然押しかけるように同居してきた息子の嫁の君枝から遠慮なくこき使われ閉口しながらもいつしか哲はこの暮らしを楽しみ始めていました。口下手な哲のことを君枝はとてもよく理解しているのが伝わってきます。
孫の未央が車のプラモデルに興味を示したことが嬉しくて、一緒に作ろうとしますが、まだ2歳の未央は目を離した隙にタイヤを喉に詰まらせてしまいます。哲は愛する者が自分から離れていくことを恐れるあまりに偏屈を装っていますが、そんな彼に君枝は子供の頃の出会いを語ります。兄のプラモデルを過って壊した君枝が哲に直したもらったことでドールハウスという趣味を持ち、それが店を持つ夢に繋がっていったのです。タネマキは哲のこれまで蒔いてきた夢とか希望の種のことだったのね。

[五枚目]マンナカ
小4のちょっと内気な深見和也へのお告げはマンナカ
転校初日に家に遊びにきた岡崎君たちから、大好きな苔をカビと馬鹿にされフカビとあだ名を付けられた和也はショックを受けます。担任がクラスに馴染むようにと岡崎君を隣の席にしたことで、更に彼の心は疲弊していきます。彼と向かい合って食べる給食の時間が耐えられなり教室を飛び出した和也は、保健室で給食を食べるようになります。保健室には朝礼で倒れた山根先生も来ていました。養護の姫野先生に抱えられる姿を子供たちも先生たちも笑いますが、和也はそんな彼らに違和感を覚えます。山根先生も苔が好きだとわかり、さらに黴も人の役に立つのだと教えてもらった和也は、自分にも思い込みがあったことに気付きます。その山根先生が心を病んで退職すると知り、和也はタラヨウの葉に手紙を書いて姫野先生に頼んで届けてもらいます。山根先生からは丁寧なお返事が届きました。山根先生にとって、和也という生徒との出会いはきっと一筋の希望となったのかもしれませんね。
マンナカとは自分が真ん中に行くことではなく、自分の思う事が真ん中だと自信を持てという意味だったようです。
皆の輪から外れないよう浮かないようと無理をして息が出来なくなるより、自分らしく胸を張っていようと決めた和也が岡崎君の目を見て対峙した時、目を逸らしたのは岡崎君の方でした。

[六枚目]スペース
幼稚園に通う悠のお母さんの千咲へのお告げはスペース
10歳年下のママ友の何気ない言葉に無意識のうちに張り合い傷ついていた彼女は、心の余裕(スペース)を失っていました。「こうに決まっている」と思い込んで初めから諦めている自分に気付いた時、その思い込みを外して心のスペースを広げ「何も決まっていない」に上書きするというアドバイスを宮司さんに貰った彼女は長年の夢である漫画家を再び志すようになります。

[七枚目]タマタマ
占い師の彗星ジュリア(ニコさん)へのお告げはタマタマ
派手な化粧と衣装で本当の自分を隠している彼女が、唯一心を許せる相手が税理士をしている高校の同級生のともやんです。
宮司から荒魂と和魂の話を聞いた彼女は、占い師になった頃の想いを思い出します。マスコミに出て派手な活躍をすることを止め、ひっそり必要としてくれる人にだけ匿名で仕事をすることを選んだ彼女は、偶然の再会(たまたま)を得て二つの「タマ」を上手に使い分けるのね。
一旦は断った玉木たまきさんの依頼を受けて失くした鍵が見つかりますが、たまきさんはその鍵を箱を開けるのではなく閉めることに使います。箱の中身は空でしたがその理由は、他人の悪口や愚痴を一切言わないたまきさんの「本当の思い」を箱に向かって話していたからです。たまきさんにとって形はなくとも他人に決して見られたくないものだったのです。

ここだけの話
7話に登場した人達がそれぞれ幸せに暮らしていることが宮司さんの口から語られます。お告げの意味を考え、気付くことで彼らは自らを変えることができました。

それぞれ独立した物語ではあるけれど、登場人物たちが何気にすれ違っていたりします。神社の通りの角に建つ雑居ビルの閉店した店が哲さんのプラモデル屋さんだったり、そのビルの上階にともやんの税理士事務所が入っていたり・・・。
哲さんは君枝さんと二人でプラモデルとドールハウスの模型専門を新規オープンして仲睦まじく喧嘩しながら暮らしています。ちなみに宮司さんの父親と哲さんは幼馴染だったのね。ニコさんはともやんの事務所の一角で覆面セラピストをしているそうです。和也君が山形に帰った山根先生とタラヨウの葉で文通をしているというエピソードがほっこりします。

小太りで温和な宮司さんもミクジに会う事ができました。彼へのお告げは「☆」ミクジのお尻にあった星形マークです。その意味は?仲間だよかな、それとも・・・。

受け取ったお告げを自分なりに考えることで彼らは前向きに変わります。
ほっこりと心があたたまる読後感です。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする