杏子の映画生活

新作映画からTV放送まで、記憶の引き出しへようこそ☆ネタバレ注意。趣旨に合ったTB可、コメント不可。

TAR ター

2023年08月05日 | 映画(DVD・ビデオ・TV)
2023年5月12日 アメリカ 158分 G

ドイツの有名オーケストラで、女性としてはじめて首席指揮者に任命されたリディア・ター(ケイト・ブランシェット)。天才的能力とたぐいまれなプロデュース力で、その地位を築いた彼女だったが、いまはマーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと、新曲の創作に苦しんでいた。そんなある時、かつて彼女が指導した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。(映画.comより)


音楽界の頂点に上りつめて絶対的な権力を振りかざすターですが、名声を守り続けるための重圧が彼女を少しずつ蝕んでいきます。芸術と狂気のせめぎ合いをケイト・ブランシェットが圧巻の演技で表現していました。ケイトは本作出演にあたりドイツ語とアメリカ英語をマスターし、ピアノと指揮をプロから本格的に学んですべての演奏シーンを自身で演じきったそうです。

ドイツのベルリン・フィルは世界最高峰のオーケストラであり、そこで女性初の首席指揮者となったリディア・ターは、並外れた才能と努力、類稀なるプロデュース力のある女性。作曲家としても圧倒的な地位を手にしたターでしたが、マーラーの交響曲第5番の演奏と録音のプレッシャーと新曲の創作に苦しんでいました。

インタビューに応えるターは威風堂々としています。その後には財団の支援者のエリオット(マーク・ストロング)との会食が控えていました。ターは財団で若手女性指揮者を育成するプロジェクトを行っていますが、参加者のクリスタが情緒不安定のため、次のキャリアへの推薦を拒否していました。

ジュリアード音楽院でも教えることになったターは、アフリカ系青年マックスの意見に対し芸術と人格は分けて評価されるべきと答えますが、彼の反感を買います。

アシスタントのフランチェスカ(ノエミ・メルラン)から、クリスタからのメールへの対応を尋ねられたターは無視するよう答え、クリスタから本が送られてきたことに気付くとそれを破って捨ててしまいます。

オーケストラのコンサートマスターでターの恋人でもあるシャロン(ニーナ・ホス)から二人の養女ペトラが学校でいじめられているらしいと聞いたターは、ペトラをいじめている子に「ペトラのパパだ」と名乗って今後娘をいじめたら許さないと脅します。

彼女の自伝を読んだ師であるアンドリス(ジュリアン・グローバー)と食事したターは、彼から感想の手紙を渡され、本の帯に使ってもいいと言われます。

仕事場として借りているアパートでピアノに向かうターでしたが、隣家の音が気になって集中できません。気分転換にジョギングに行っても様々なノイズが彼女を苛つかせます。

高齢の副指揮官セバスチャン(アラン・コーデュナー)の見当違いの意見を聞いて、ターは以前から考えていたとおり、彼を辞めさせフランチェスカを副指揮官にしようと行動を起こそうとしますが、そんな折、動揺したフランチェスカからクリスタが自殺したと聞かされます。彼女を宥め、クリスタとのメールを全て削除するよう指示しますが、後日、フランチェスカがメールを削除していないことに気付きます。副指揮者を目指すフランチェスカはターと師弟関係にありますが、互いに深い信頼関係は築けていないことが示されるエピソードでした。

シャロンからはオーディションで合格させたロシア人チェロ奏者オルガ(ソフィー・カウアー)への不満を聞かされますが、ターは取り合いませんでした。(ソフィーは実際にチェロ奏者として活動しているそうで本作が俳優デヴューだそうです。)

深夜のメトロノームの件はちょっと意味不明

セバスチャンに引導を渡し、フランチェスカにその座を匂わせたターに彼はフランチェスカとの関係を邪推します。

オルガの若さや大胆さ、自由奔放さに惹かれていくターは、コンサートで演奏するもう一曲をエルガーのチェロ協奏曲にします。この曲はチェロのソロがあるのね。
ソロ奏者は(形式上は)オーディションで決めると言いながらも、明らかにオルガを抜擢するための出来レースだとメンバーは不信感を募らせます。更にフランチェスカを副指揮者にしなかったことで、裏切られた彼女はオーケストラを去ります。

ある日、財団にクリスタの両親から娘の自殺にターが関係しているとの告発状が届きます。フランチェスカに去られ、財団や弁護士との対応に時間を取られてますます「雑音」が気になっていくターの楽しみは、オルガとのレッスンの時間です。
レッスン後彼女を車で送ったターは、ぬいぐるみの忘れ物に気付いて後を追いますが、廃墟のような様子に怯えて逃げ出し階段で転んでケガをしてしまいます。
顔の傷に驚く楽団員に平静を装い明るく振舞うターですが、世間では、ジュリアード音楽院でのマックスとのやりとりが編集されてSNSに拡散され、クリスタを支援するサイトと結びついて、ターへの逆風が起きていました。そんな中、支援者との会合よりNYでの自伝の出版会見を優先するターに対して財団側も不満を持ちます。

NYでターは、エリオットに支援関係の解消を告げられます。会見会場の前では抗議デモが行われ、オルガを伴う映像をニュースで見たシャロンからの電話を無視したターは、帰宅後、彼女から自分たちは愛情ではなく利害関係で結びついていたのだと言われます。NYでのオルガはターに関心がなく、まさに気の向くままに振舞っていました。

シャロンに見捨てられたターはペトラにも会わせてもらえず、楽団員からも財団からも見放され指揮者を解任されてしまいます。アパートでも音を注意され自暴自棄になったターは、マーラー5番のライブ録音コンサート当日に騒動を起こしてしまいます。(自分の代わりにエリオットが指揮をすることに耐えられなかった?)
生まれた家に戻ってきた彼女に兄が「リンダ」と声をかけます。それが本名なのね。自分の部屋に残されていた音楽ビデオを見ながら彼女は忘れていた音楽への初心を思い出します。

指揮者として再出発しようと小さなマネージメント会社と契約しアジアの国(フィリピン?)にやってきたターは、ゲーム音楽の指揮を任され真摯に譜面に向かいます。疲れを癒そうとホテルで聞いたマッサージ店を訪れたターですが、ガラスの向こうにオーケストラの配列 のように並んだ女性たちの中から選ぶように言われ〝5番〟と目が合います。そこは風俗店でした。自分がこの奴隷のようなシステムと同様のことをしてきたのだと気付かされたターは店を出て嘔吐してしまいます。

イベント当日、ステージでヘッドホンを付け タクトを振るターの後ろの客席にはコスプレをした沢山のゲームのファンたちが座っていました。「モンスターハンター」のゲーム音楽のコンサートらしい。

ターはインタヴューの中でペルー東部のウカヤリ渓谷を訪れて先住民シピボ・コニボ族の間で5年間を過ごしたと語っていますが、その旅に同行していたのがフランチェスカとクリスタなんですね。ターの嗜好を思えば、3人の間に複雑な感情・関係が生まれていたとしても不思議はありません。冒頭のチャットの会話がクリスタとフランチェスカだとすれば、フランチェスカの態度も納得できるかも。

音楽を志す人や、音楽家と言われる人が観たらより深い感想になったと思いますが、全くの門外漢にはケイトの演技は素晴らしかったけれど、ターという女性には共感を覚えることができなかったのが残念です。でも彼女の音楽に対するストイックなまでの実直さは伝わってきました。

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