るり姉
2023年08月29日 | 本
椰月 美智子 (著) 双葉文庫
十代の三姉妹が「るり姉」と呼んで慕うるり子は、母親の妹つまり叔母さん。天真爛漫で感激屋で、愉快なことを考える天才だ。イチゴ狩りも花火も一泊旅行もクリスマスも、そして日々のなんでもない出来事も、るり子と一緒だとたちまち愛おしくなる―。「本の雑誌」2009年上半期エンターテインメント・ベスト1に輝いた傑作家族小説。ラストの静かな感動が胸いっぱいに広がる。(「BOOK」データベースより)
読書仲間や既読者の評価はイマイチだったりしますが、私的には引き込まれました。登場人物たちはどこにでもいそうな普通の家族ですが、それぞれに抱くるり姉への気持ちがストレートに伝わってきて心がほっこりしました。
季節を遡りながら三姉妹や母親、るり姉の夫の視点で語られる、るり姉との愛おしい日々からは、日常にある幸せの大切さを気付かせられます。
第三章までは「るり姉」の状態に悲観的な匂いが漂っていて辛くなったのですが・・・あららそうきましたか!な結末で、でも「良かったね」と素直に思えました。
第一章 さつき―夏
さつきはるり姉の姉の長女です。
両親は離婚していて姉妹は母が引き取って一時祖母の家で暮らしていたことがあり、るり姉とは大の仲良し。飼い犬のアニ―をるり姉は悲し気で可哀相で見てられないと言うけど、お菓子に目がなく行儀の悪いアニ―はちっとも悲し気じゃないと思っています。母のズボンのチャックがいつも開いているとか、妹たちのことなど大まかな人物紹介が語られる序章と言う感じです。😁
イチゴ狩りに出かけた際の楽し気な様子から一転、るり姉の入院と、やせ細った彼女と病院の屋上で見た花火の描写に哀しい結末を予想してしまいますが・・・
第二章 けい子―その春
るり姉の姉のけい子の目線で語られる日常は、「イチゴ狩り」の約束をしていた春の頃。女手一つで三人の娘を育てる苦労は並大抵ではなく、忙しさに追われ疲れ果ててしまう毎日の中で、車の中がゴミだらけでも、新しいズボンを買う時間的余裕もなくて常にチャックが開いてしまっても、反抗期の娘に困らされても、偶然別れた夫の姿を目撃して動揺しても、「寝れば忘れる」特技で乗り越えちゃうお母さんに拍手したくなります。看護師の彼女は、配置換えで病棟が代わって厄介な患者を相手に苦戦することもしばしばですが、それすら状況を楽しむことができるバイタリティの持ち主でもあり、苦手な先輩看護士や若い後輩とも徐々に距離を縮めていきます。何より彼女の愛読書が「花とゆめ」というのがとってもツボです😍
個人的にはこの章が一番好き。
第三章 みやこ―去年の春
けい子の次女のみやこは、るり姉曰く「腐った赤キャベツ色」に髪を染めた一見ヤンキーな女の子です。でも彼女がその頭に拘るのには、中学の入学式の後に会ったお父さんが関わっていました。他の二人が母親似の髪質なのに、みやこは父親似のストレートな黒髪だったのです。他の姉妹や母には内緒で自分だけに会いに来た父への嬉しさと、会ったことを家族に隠している罪悪感が入り混じり不器用な生き方になっているのね。同じく学校で浮いていたユキとキング先輩のアパートに上がり込むようになっていたある日、先輩の母親がやってきて二人きりで鍋を食べて妙に気が合うエピソードに、外見と中身は同じではないことを再確認させられたりします。るり姉は自分の中学時代と似ているみやこに特別思い入れがあるようで、何かとみやこを気遣っているのが伝わってきました。
第四章 開人―去年の秋
るり姉の夫の語る二人の馴れ初めです。
るり姉に一目惚れして積極的にアプローチするカイカイ(開人)の様子がユーモラスに語られます。ほんと、犬も食わないのろけ話のオンパレード。でもこれだけ惚れられたら女冥利に尽きるというものですね😁
第五章 みのり―四年後 春
みのりはけい子の三女です。
小中はバレー一筋だったのに、高校入ったら軽音楽部 って、方向転換半端ないんだけど😓仲の良い子とバンドを組む話になり、 何か楽器を担当しなければと祖母の家にピアノがあることを思い出したみのりは、るり姉に教えて貰おうと頼みますが、ピアノを弾けたのは母のけい子の方でした。
って・・え?第一章で今にも死にそうだったるり姉がすっかり元気になってるじゃん!過去に遡っていく章の中で、「あぁ、思い出は輝いているなぁ」と切なさを溜めていたこちらの気持ちをどうしてくれるのさ!と肩透かしを味わいながらも、元気になってたのか~!と良かった感もじわじわ湧いてきます。
そういえば、はっきりした病名は書かれていなかったし、手術すれば治ると大人たちは言ってたような気も。ミスリード上手いなぁ。というか、家族の信じる力が奇跡を起こしたってことかしらね。