京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

爆死するシロアリ:動物世界で老人は無用の長物か?

2020年05月13日 | ミニ里山記録

  生殖能力をうしなって働きのない個体は生物集団の中では無用の長物どころか、食いぶちを減らすだけの有害因子でさえある。たいていの生物集団は一定の個体数を維持するために、カツカツの食糧で頑張っているのに、食うだけ食ってブラブラしている個体には居てほしくない。

生物的には役立たずの老人を大事にせよと、ありがたく教えてくれたのは、中国の儒教であった。儒教でなくても、「亀の甲より歳の功」とかいって老人は人々に尊敬されていた。何故なら、昔の老人は経験と知識と知恵を蓄積していたので、有益なアドバイザーとして後輩に利益をもたらしたからである。しかし今の老人は違う。たいていの老人は日進月歩の技術についていけず、スマホも碌に使いこなせず孫にまで馬鹿にされている。

まだ、それでもバアさんの方はよい。お盆の帰省ラッシュのテレビ放映を見ていると、子供は大抵「田舎のおばあちゃんの所にいく」という。「おじいちゃの所に行く」と言っているのは聞いたためしがない。おばあちゃんは今や生殖能はないにしても、孫の家族の手助けをすることによりクラスターに貢献できる。一方、おじいちゃは、ウロウロするだけで役立たない。技術、進歩に追いつけない只のデクの坊である。今やじいさん連中は居場所がなく、大変な世の中になっている。

こんな悲しい老人男子に降り掛かった災難が新型コロナウィルスである。こいつに老齢者が感染すると重症化し死亡する率が高い。おまけに不公平なことに、死亡率は男性の方が女性よりも1.6倍も高い。このウィルスは自然がつかわした高齢人口の調節ウィルスなんだろうか?

 

  人間社会の老人は例外を除いてあまり使い道がないが、昆虫の中にはそれに壮絶な役割を持たせて、集団を維持しようとする連中がいる。

 

図:シロアリ (Neocapritermes taracua)は爆発して、敵に害を与える背嚢を持つようになる(矢印)。黄頭のシロアリは兵士。参考論文より引用転載。

 

  戦争ではどこの国でも20歳前後の若者が兵隊に徴用される。一方、昆虫の中には老齢個体を特攻隊員にしたてて自爆攻撃させるものがいる。フランス領ギアナの熱帯林に生息するシロアリの一種Neocapritermes taracusは齢がすすむと、有毒な青い液体の入った背嚢が形成される(図)。そしてシロアリがコロニーを守る為に外敵と戦うときに、この嚢が敵に向かって破裂するのだ。年長の働きアリたちは、このような自殺的な利他行動でコロニーに貢献しているのである。年取った働きアリの大アゴは、ぼろぼろにすり減って、採餌や幼虫の世話には役立たないので、特攻攻撃はせめてものお役立ちとなるわけだ。

 このような自己破壊的な行動はミツバチなどの真社会性昆虫の不妊働き蜂階級でよく観察される。ミツバチは羽化後の時間に応じて労働分化がおこり、若齢のハチは巣内で働くが、老齢バチはリスクの高い外勤をするようになる。さらにエイジが進んでハチが老化すると、若いハチに巣口の外に押し出される。加齢臭がするのか、体表のワックの組成が変化するためであろう。

もっともアリやハチの労働階級は全てメスなので、若齢な個体にとってはすべて姉にあたる。年寄のオールドミスのアリやハチが自己犠牲の行動を示すのである。オスは交尾が終わると死んでしまう。邪魔になるので、巣にいる時間はほとんどない。

 

文献

Zoe Cormier「Termites explode to defend their colonies-Older workers use chemical reaction to increase toxicity of 'explosive backpacks」Nature doi:10.1038/2012.11074

(https://www.nature.com/news/termites-explode-to-defend-their-colonies-1.11074)

 

追記(2020/12/16)

   深沢七郎の短編「楢山節考」は棄老の風習を描いている。アメリカの作家ジャック・ロンドンの掌編にも、インディアンの老人が雪山に捨てられ狼に喰われる話を綴った「生命の掟」がある。実際、日本や世界で棄老があったのかどうか?そういった研究はあるのか?

 

 

 

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