フランク・ライアン 『ウイルスと共生する世界』〈多田典子、福岡伸一訳)日本実業出版社
ウイルスが宿主に寄生するだけでなく、共生関係をもって共存する例がこの本で紹介されている。その一つが、ヒト内因性プロウイルスのエンベロープ遺伝子envが胎盤形成に必須という事実である。現在これはシンシチンー1タンパク質をコードしている。この蛋白はトロホブラストと呼ばれるヒト胎盤の境界面で発現する。1億5000万年以上前に、胎盤を獲得するために卵生の祖先によるウイルスからシンシチンの取り込みが必須だったようだとされている。しかし逆の仮説も考えらえる。シンシチン遺伝子が切り出されてレトロウイルス遺伝子に取り込まれたとも。
植物ー真菌ーウイルスの共生によって宿主の植物が耐熱性を獲得する例も面白い(p266).。細菌やアーキアとウイルスとの相互作用は、何十億年にもわたって生態系で重要な役割を果たしてきた可能性がある。