京都楽蜂庵日記

ミニ里山の観察記録

感染症はヒトの遺伝子を進化させる: マラリアと鎌状赤血球の関係

2020年05月26日 | 環境と健康

 ヘモグロビンは赤血球の中に含まれる酸素を運ぶヘム蛋白質である。ヒト成人のヘモグロビンにはαとβの2種類がある。β鎖のヘモグロビンの6番目のグルタミン酸が、バリンに置き換わったものはヘモグロビンSといわれる。これは第11染色体に存在する遺伝子の変化による。ある部位のコドンの真中のチミン(T)がアデニン(A)に変わったために生ずる。

 この突然変異は鎌状赤血球貧血症という遺伝子病を引き起こす。ホモ接合型の人は大抵、成人前に死亡する。一方、ヘテロの人は低酸素条件でのみ発症するので、普通の日常生活は営むことができる。こういった遺伝子を持つ人は、ほとんどが黒人である。これの頻度の高い地域はアフリカ、地中海沿岸、中近東それにインド北部である(下図b)。この分布はマラリアの分布域とほぼ一致する(上図a)。

(参考図書より引用転載)

 鎌状赤血球のヘテロの遺伝子保因者は、正常状態では60%が正常赤血球、40%が鎌状赤血球の状態である。マラリア原虫は人体では赤血球内で増殖する。マラリア原虫に感染すると赤血球のpHが低下し、ボーア効果により赤血球の鎌状化が進む。

マラリア感染初期ではマラリア原虫が感染し、鎌状化した赤血球は脾臓で優先的に除去される。また感染後期では鎌状化した赤血球によりマラリア原虫は機械的に壊される。ようするに、鎌状赤血球は体内におけるマラリア原虫キラーである。これによりヘテロ保因者は、マラリアに対し耐性を発揮する。

 鎌状赤血球遺伝子は本来は生存に不適な突然変異として淘汰されるべきものであったが、マラリア感染症に耐性であるという利得があり、集団の中にある頻度で広まっている。

人類におけるコロナウィルスの感染の歴史が、いつからかは不明であるが、遺伝子レベルでのトレードオフが起こっている可能性はある。

 

参考図書

N.マックリーン 『ヘモグロビン』(山上健次郎訳)朝倉書店、1981

 

 

 


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1 コメント

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高校生物で (舶匝(@online_checker))
2020-05-27 09:26:31
鎌状赤血球、習いました。
生き物のしぶとさ、只では転ばぬ屈強さを強く感じました。
ヒトのゲノム配列を眺めると、ヒトとウィスルとだけに共通する塩基配列が少なからず、登場。ウィスルがヒトの遺伝子変異に貢献した証左である、と大学で(ノーベル賞受賞者山中さんの御友人から)習いました。
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